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リスクマネジメント
突然ですが、あなたは「リスクマネジメント」という言葉、聞いたことありますか?
少し難しい言葉に聞こえるかもしれません。しかし、言葉を分解すれば簡単です。
リスクマネジメントとは、事業をする中で起こりうる「リスク」を、それが起きないように、または被害を最小限にするために「マネジメント」することです。
リスクマネジメントとは?
出典:4photos.net
簡単とはいえ、まだしっくりこないかもしれません。
身近な例で、いったいリスクマネジメントが何なのかを説明しましょう。
あなたは友達にCDを貸したことがありますか?貸すときには何を考えますか?
「返ってこなかったらどうしよう」「傷んで帰ってきたらイヤだな」そんなことを考えると思います。
では、貸したときの状態で、確実に返してもらうために、あなたは何をするでしょうか。
貸し出す期間を決める、絶対返すように念を押す、そもそも信頼できる友達なのか疑う… 様々な方法があります。
出典:www.mypharmacare.ca
実は、この行為がまさにリスクマネジメントそのものなのです。
もう1つ質問をします。もし、返ってきたCDが傷だらけでもう再生できなくなっていたら、あなたはどうしますか?
CDの代金を請求する、友達に同じCDを買ってもらう、もうその友達にCDを貸さない… こちらも様々な方法があります。
これらも、リスクマネジメントの一部です。ただし、これらの行為は「危機管理」と呼ばれることもあります。
リスクマネジメントと危機管理
「リスクマネジメント」と「危機管理」。似た言葉ですが、何が違うのでしょうか。
その違いを、図にまとめました。
簡単に図についてご説明します。
「予防・抑制期」は、危機の発生を事前に防ぐべく、事前に対策を練る時期のことです。
「初期対応期」は、万が一、危機が発生してしまったとき、その被害を最小限に抑えるための活動を行う時期です。
「回復期」は、被害からの完全回復に取り組む時期です。
図をご覧の通り、危機管理は、危機が発生してしまった後の行動を想定した考え方です。
一方、リスクマネジメントは、危機が発生する前からその危機を予防し、万が一起こってしまったときにも、被害が完全に回復するまでの計画を含んだ、長期的なものの見方をしています。
先ほどのCDの例に戻りましょう。
CDが傷だらけで返ってきたのを見たあなたが、友達からそのCD代金を少しでも弁償してもらえたなら、あなたの行動は「危機管理」です。
一方、CDを貸す前から傷だらけになるリスクを想定し、事前にそれを防ぐ方法を考えていたとき、また、もし傷だらけになってもCDの代金を全額弁償してもらったり、また同じ思いをしなくて済むよう対策を考えたなら、それは「リスクマネジメント」なのです。
様々なリスク
では、企業が事業をする中で、どんなリスクに遭遇することがあるのでしょうか。
少し古い資料ですが、2003年に東京海上リスクコンサルティング株式会社が調査したレポートに、企業が遭遇しうるリスクの一覧があったのでご紹介します。
この一覧表は製造業を想定しているので、他の業界の方は自分の企業を想像して考えてみてください。
出典:www.tokiorisk.co.jp
この一覧だけでも、92種類のリスクが挙げられています。これだけたくさんのリスクに対処するのかと思うと、気が遠くなります。
企業のリスクマネジメント実例
では、これだけたくさんのリスクに、実際の企業はどう対処していると思いますか?
次に、リスクマネジメントに力を入れた企業の実例を見てみましょう。
⒈オランダ東インド会社
出典:415100.blog50.fc2.com
中学校の歴史の授業を思い出してください。きっとこの会社のことは学習したはずです。
歴史の授業で「世界初の株式会社」として先生から教えてもらった、あの会社です。
企業におけるリスクマネジメントの歴史は、1602年3月20日、「株式会社」という概念の誕生と同時に始まりました。
オランダ東インド会社といえば、どんな事業をしていたか、答えられますか?
アジアの香辛料を、ヨーロッパに船で運び、売る「貿易業」が正解です。
貿易をするには、たくさんの積み荷を運べる巨大な船が必要です。そのためには多くの資金が必要です。
しかし、船を造ったところで、難破したり、海賊に襲われたりすることも多々ありました。つまり、大金をつぎ込んでも、全く利益にならない可能性があるのです。
これでは、あまりにもリスクが大きすぎる。そこで、多くの人から出資を募り、リスクを分散させるために生まれたのが、「株式」です。
一人一人が、自分の懐に見合った額だけ出資することで、危険な航海のリスクを分散させ、もし航海が失敗しても、また資金を集めやすくしたのです。
⒉トヨタ自動車
出典:www.toyota.com.au
2社目は、株式会社の誕生から約400年後、現代を代表する株式会社です。
世界の自動車メーカーの代表格、トヨタ自動車です。
一見すると、自動車業界では無敵にも見えるトヨタですが、実はかなり綿密なリスクマネジメント計画を立てています。
特に、災害対策にはかなり力を注いでいます。そのきっかけは2011年に起きた東日本大震災です。
トヨタの工場は直接には被災しなかったにも関わらず、サプライヤーが被災したために部品の供給が停止し、生産がストップ。新車の販売やアフターサービスが行えなくなりました。
在庫を持たないトヨタ生産方式を採用していることも、この原因の一つとなりました。
そこで、トヨタでは、災害時でも事業を継続するために、工場の設備を、壊れにくく、もし壊れても復旧しやすいよう、従来よりもシンプルなものに改良しました。
また、非常時にも柔軟に生産活動が行えるよう、トヨタ生産方式の特徴の1つである「多能工」の育成をより強化しました。
トヨタは、非常時だけに使う特別な設備や能力を育成するのではなく、従来よりもリスクに強くなるための仕組みを、日常の生産活動の中に取り入れました。
これにより、近い将来起こるとされる南海トラフ地震を乗り越える計画です。
リスクマネジメントまとめ
リスクマネジメントは、言葉だけ聞くと少し難しく聞こえます。
しかし、企業でなくても、人が生活のなかで考え、行動し、そこから学ぶなかで自然と行っている身近なものです。
また、株式会社の誕生から400年以上も研究され続けている、奥の深い世界でもあります。身近ながらも、実はかなり奥が深いリスクマネジメントの世界を、この記事で少しでも理解していただけましたら幸いです。