インテグラル理論とは、ケン・ウィルバーが提唱する理論や思想体系のことで、さまざまな理論を統合的に捉えた理論”メタ理論”として注目が高まっています。

インテグラル理論はAQAL「All Quadrants, ALL Levels, All lines, All states, All types」(全象限、全レベル、全ライン、全ステート、全タイプ)の略で「象限」「レベル」「ライン」「ステート」「タイプ」という5つの要素からなるメタ・フレームワークです。

インテグラル理論を学ぶことで、自身の視点の偏りに気付くことができ、物事を統合的にとらえやすくなります。

1.インテグラル理論の構成要素” 象限”について


象限はインテグラル理論の5つの要素のうちの1つです。そして象限を理解するためには、象限の前提である真善美を知っておかなければいけません。

1-1真善美

私たちが物事を統合的に見るためには、真善美と呼ばれる知の三領域を考慮に入れる必要があります。

真とは、それ。すなわち三人称のことで客観的な事実の領域です。

善とは私たち、ウィルバーはこれを二人称とし、道徳や倫理として共有される間主観的な合意の領域としました。

そして美は私=一人称、つまり主観的な経験の領域です。

インテグラル理論では、人は世界をこの三つの視点を通してみており、なにか問題が生じたときはいずれかの視点に偏った見方をしていると考えます。

1-2 4象限

ウィルバーは、「真善美」から考え方を発展させ、インテグラル理論では4象限として、個人と集団、内面と外面によって分類しました。

普段、ある事象を私たちは無意識のうちに特定の視点から捉えがちです。4象限は複数の視点の最も根本的な類型であると言えます。

例えば、コンサートに行ったとします。あなたはどこに重点を置いて鑑賞しますか?

衣装やパフォーマンスに着目した場合は個人の外面、どのような思いでこのステージに立っているのかを考えるなら個人の内面に着目しています。

ステージセットに着目した場合は集団の外面、コンサートを作り上げたチームがどのような価値観のもと運営しているのか考えた場合は集団の内面に着目しています。

最も大事なことは視点が異なるだけで目の前で起こっている事象はすべて同じである点です。

インテグラル理論の構成要素の1つである4象限を理解することで、自身の視点の偏りが自覚でき、物事をより統合的にとらえられるようになります。

2. インテグラル理論の基本概念AQALの要素

インテグラル理論の5つの構成要素は、先ほどの4象限に、「レベル」「ライン」「ステート」「タイプ」を合わせたものです。

2-1レベル

インテグラル理論では、人は成長しその過程は一定の段階を経ると考えられています。
この段階のことをレベルと言います。

同じ本を読んでも、子供のころと現在では感じ方が異なるのではないしょうか。

これは自身の物事を咀嚼したり解釈したりする機能が変化した、つまりインテグラル理論でいうレベルが変化したからだと言えます。

インテグラル理論ではこのレベルの発達過程を6つの段階に分けています。

1.呪術型段階(マジェンタ)
自らの主観的な経験だけに基づく世界観が形成される段階

2利己的段階(レッド)
生理的な衝動を充足させるために、意識的に行動できるようになる段階。自身の欲求を満たすことが最優先事項であるため利己的だと呼ばれる。

3神話的合理性段階(アンバー)
自己の限界や非力さを知りそれを克服するために偉大な存在を信じる段階。
自身の信仰対象を批判的に見ることはできない。

4合理的段階(オレンジ)
健全な意味での懐疑と実験の精神を重視する段階。
普遍主義的な精神を宿す段階。

5多元的段階(グリーン)
合理的段階で身につけた価値体系を対象化し、その外にあった価値や意味にも自分を開き始める段階。

6.統合的段階(ティール)
事象に対し構造的な原因に直接アプローチする段階で、複数の考え方を自由に行き来することができる。

レベルのような人間の成長の過程を俯瞰する視点を持つことは、人生という大きな枠組みの中で、その瞬間の自己をとらえることを可能にします。

2-2ライン


インテグラル理論におけるラインとは、多様な能力を分類したもののことです。

レベルは個人の中核的な部分における段階であって、個人のすべての能力が同じレベルであることはありません。

対人関係においては合理的な人でも、政治については利己的になる人と出会ったことはないでしょうか。

このように、ラインは多種多様であり、人に応じてレベルに差があります。

ラインを意識することは、バランスのとれた人格を構築することにつながります。

2-3 ステート

次にステートです。インテグラル理論では意識を大きく二つの観点からとらえます。

一つはレベル=意識段階、もう一つがステート=意識状態なのです。意識状態は意識段階と違って一瞬の間に別の意識状態へ移行する特徴があります。

ステート(意識状態)は自然な意識状態・変性意識状態の2つに分類されます。

自然な意識状態は起きている状態、夢を見ながら睡眠している状態、深い眠りの状態、観想の意識状態、非二元の意識状態の5つに分類されます。

この5つは日常的に経験している基本的な意識状態です。どれか一つにとどまっていることはなく、また同時に二つの意識状態に属することもありません。

変性意識状態は日常ではあまり経験することのない非常にまれな状態のことです。酩酊している状態や、熱狂している状態がこれにあたります。

この変性意識状態は扱い方によって有益にも有害にもなりえるため注意が必要です。

インテグラル理論では、レベルを発達させるだけではなく、(意識状態を探究する事柄)など、意識状態を探求することが重要だと考えます。

2-4タイプ

 

タイプとは人間の特性の分類のことです。

インテグラル理論におけるタイプは、個人に内在する世界観/価値観におけるタイプ/パーソナリティーの理解により注目するものです。

基本的には水平的な多様性・差異の理解ですが、これに垂直的な多様性、差異の理解を組み合わせることでより統合的な理解が深まります。

こういったタイプ論を用いることで自身の弱み・強みを自覚することができます。

以上4象限を含む5つのインテグラル理論の構成要素は能力の発揮度合いを点検するためのツールであり、自身の視点の強み・弱みを知るきっかけとなります。

また、自身の課題や成長の方法を把握することもできます。

3. インテグラル理論の実践


インテグラル理論を実践するとは、ボディー(身体)・マインド(心)・スピリット(精神性)・シャドー(抑圧された無意識)の鍛錬により全人格的発達をもたらす統合的アプローチを行うことです。

インテグラル理論ではボディーをこの世界の喜びと悲しみを感受する窓口ととらえます。

ボディーを鍛えることは肉体的な健康維持に加えて、精神生活を豊かにすることにつながります。鍛え方はバランスのとれた食事、トレーニングなどです。
マインドの実践とは、私の視点と他者の視点の両方を包含する包容力のある視点を自己の中に確立していくことです。読書や勉強会に参加することなどが当てはまります。

スピリットの実践とは、自分を支えるすべてを失ったとき、それでもなお我々に生きることを可能としてくれるものへ意識を向けることです。座禅や奉仕活動がこれにあたります。

シャドーの実践は我々が排除・抑圧した自己の部分や側面を回復するために行います。自己観察や夢日記などがシャドーの実践として有名です。

インテグラル理論を実践する際、この4項目を自身がどれをどのくらいの頻度で鍛えることができているのか整理してみましょう。

このことで自身の偏りを把握でき、何を実施すべきなのか明確になっていきます。

 

組織に働きかける際のポイント

 

インテグラル理論を個人ではなく、組織=集合体に対して実践する場合はどのようにすればよいのでしょうか。

インテグラル理論について書かれた書籍、『入門 インテグラル理論 人・組織・社会の可能性を最大化するメタ・アプローチ』内で”共同体には進化しようとする内的な衝動が息づいていることを認識・尊重すること”を前提に、状況把握・課題の明確化・働きかけという3つのプロセスを踏むことで組織に対してインテグラル理論が実践できると述べられています。

1.状況把握

これは3つのプロセスの中で最もインテグラル理論が効果を発揮する領域の1つであると言われています。昨今では組織の公的書類のような外的領域のみがフィーチャーされがちです。こうした見方では取りこぼしてしまう情報(主観的な視点など)を四象限の考え方を用いることで認識しやすくなり、包括的に組織の状況把握ができるようになります。

 

2.課題の明確化

四象限に留意して組織の状況が把握できれば、負荷がかかっているところや、成長の兆しがあるところといった組織の健康状態が見えてきます。組織としての課題はなにかをここから探求します。インテグラル理論の中にあるレベルの考え方を用いて、今権力をもっている人はどのレベルの人に多いのか、特定のレベルの人に組織が支配されていることで生み出される影響はどのようなものなのか、などを考えていくとより課題が明確化しやすくなります。

 

3.働きかけ

組織としての状況や課題が把握できれば、各レベルの人を可能な限り健康状態にし、その能力を最大化させる必要があります。そのためにはリーダー層の育成が最も重要であると言われています。組織のリーダーであるために、グリーン~ティール段階の認知能力が求められることが多いです。

 

このようにインテグラル理論は個人にとどまらず、組織に働きかけることもできる理論です。

 

これはインテグラル理論の応用のほんの一部にしかすぎません。ほかの活用事例を知りたい方はぜひ書籍を手に取ってみてください。

4. インテグラル理論の理解を深める


最後にインテグラル理論の理解をより深めるための書籍・媒体を紹介します。

①鈴木規夫ほか『入門インテグラル理論 人・組織・社会の可能性を最大化するメタ・アプローチ』 日本能率協会マネジメントセンター,2020年

これはウィルバーの書いた書籍をよりかみ砕いた形で言語化されています。

②ケン・ウィルバー著 加藤洋平訳『インテグラル理論 多様で複雑な世界を読み解く新次元の成長モデル』日本能率協会マネジメントセンター,2019年

これはウィルバーがインテグラル理論について書いた書籍を直接翻訳している内容であるため、①より原文に近い形で書かれています。

③ケン・ウィルバー著 門林 奨訳『インテグラル理論を体感する 統合的成長のためのマインドフルネス論』星雲社,2020年

この書籍はインテグラル理論の実践に焦点をあて描かれています。

5.多様性のある社会を生きていくヒント”インテグラル理論”


多様性が認められる時代になったことで、より物事の構造が複雑化しました。

自身が統合的かつ包括的に事象をとらえられているかわからなくなったとき、このインテグラル理論を利用すれば見えていなかった視点に気づくことができるかもしれません。

インテグラル理論を動画で学ぶコンテンツ

インテグラル理論は、メタ理論であるが故に、抽象度が高く、理解しづらい側面があります。
知性発達学の第一人者加藤洋平氏が短い動画で、インテグラル理論を解説する「enfacインテグラル理論」など、動画コンテンツで学習することもおすすめです。

「enfacインテグラル理論」はこちらから

 

 

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