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日本独自のものは海外で売れるのか
出典:photo53.com
伝統工芸品や和服など、日本独自のものを海外へ輸出するビジネスには夢があります。
日本文化のファンは世界中にいて、先日も「第8回世界盆栽大会」が埼玉で開催され、盛況のうちに閉会したそうです。
「彼らに日本独自の商品を売り込むことができれば、日本文化を世界に広めながら、稼ぐこともできる!」
もちろん、そんな簡単な話ではありません。
日本文化のファンの数は世界人口の一部にすぎませんし、実際に購買意欲を持つ層となるとさらに少なくなります。
そもそも海外の日本文化のファンに売ることは日本文化を広めることと同義ではありません。
必要なのは、日本で生まれたものが世界の日常に溶け込むことです。
日本人は当たり前のように洋服を着て、フォークで食事し、ワインを飲んでいます。そのレベルで浸透している日本生まれのものはあまりありません。
そのような中、『日本酒を世界酒に』することをビジョンに掲げた企業があります。
日本酒ベンチャー「WAKAZE」は世界に展開するために日本酒に新たな可能性を与えました。
今回は、その戦略について考えていきましょう。
「日本酒を世界酒に」、WAKAZEの挑戦
出典:wakaze.jp
WAKAZEは、元BCGコンサルタントの稲川琢磨氏によって生まれました。その目的は、「日本酒を世界に広めること」です。
海外での日本酒造りを当初の目的としていた稲川氏は、海外の方や日本酒初心者にいくつかの日本酒を飲んでもらい、どのような日本酒を広めていくことが有効なのかを探っていました。
しかし、その場で稲川氏が再認識したことは、お酒がコミュニケーションツールであるということでした。
一緒に日本酒を飲み比べていた知り合いでも何でも日本酒初心者たちが、日本酒を通して仲良くなっていたのです。
この発想から生まれたのはWAKAZE飲み比べセット。みんなで飲み比べを楽しめるセットを目指して作られました。
このように、WAKAZEは日本酒に新たな価値を創造しながら展開していこうとしています。
洋食と組み合わせられる「ORBIA」
出典:wakaze.jp
現在WAKAZEが取り組んでいる商品は「ORBIA」という日本酒です。
そのコンセプトは、「洋食とのペアリングを楽しめる」日本酒であるということです。
洋食では、和食に比べてオリーブオイルなどの油脂分を多く使います。また、味付けも比較的強く、ボリューム感のあるものです。
ORBIAはそれらに釣り合うような重厚感、密度にこだわっています。さらにはワインで使用されるオーク樽を熟成に使うことで、洋食に合う芳醇な香りを生み出しています。
種類は、甘味を重視した「LUNA(ルナ)」と酸味を意識した「SOL(ソル)」の2種類があります。
本格的な海外展開に向けて、WAKAZEが生み出したのは洋風日本酒。
日本酒の強みを押し続けるのではなく、洋食に合うようなアレンジを加えるという戦略を選んだのです。
海外に広める=その地域に適合させる
出典:industry-illustration.com
日本人と外国人の価値観はやはりどこかで異なっているものです。文化に関しては、その違いは大きく、食文化となるとかなり違います。
稲川氏は、海外に日本酒を広めるためには、まずその文化に適合しなければならないと考えたのでしょう。日本酒を「日本から来た珍しいもの」ではなく、「日本から来た取り入れるべきもの」にしたいという意志が見えます。
商品を海外に広めるためには、それぞれの地域への適合(ローカライズ)を考えなければなりません。
日本の市場と海外の市場は別の市場なのですから当然のことです。「そのまま」ではいけないのです。
家電業界ではよくあることですが、日本では売れた多機能商品が、海外ではさっぱり売れないなどが悪い例です。
良い方の例として、自動車の輸出時に製品の名前を全く違うものにするというものがあります。これは現地の人たちの趣向に合わせることで売上拡大を狙ったものです。逆に名称変更を行わなかったことで、現地では卑猥な意味に受け取られてしまう車種名も存在しました。
マクドナルドも良い例です。アメリカと日本を見ても、サイズやこだわる部分などが違いますし、インドでは牛肉を使わない、インドネシアではライスのメニューも出すなど、現地に合ったメニュー作りが行われているのです。
市場の特性に合わせた展開を
良いと思ったもの、周りに良いといわれたものが、遠く離れたところでそのように思われるとは限りません。
WAKAZEが日本酒を海外に広めるためにとった選択は、ただ単に日本酒の良さをアピールすることではなく、洋食と共存しやすい日本酒を生み出すことでした。市場の特性を知り、市場に適合することはマーケティングの基本でもあります。
あなたが自社のサービスの製品を世界展開しようとするとき、もう一度マーケティングの基本に立ち戻ってみてください。