Contents
始まった働き方改革
「働き方改革」
もはや聞き飽きたかもしれないこの言葉について少し歴史を眺めてみましょう。
2017年3月 「働き方改革実行計画」がまとめられる
2018年6月 「働き方改革法案」成立
2019年4月 働き方改革関連法、段階的に施行開始
二年半をかけて働き方改革が動き出しました。
すでに現場で対応に追われている人も多いでしょう。
しかし今ひとつ働き方改革にピンと来ていない人もいるのではないでしょうか?
「過労死ヤバイから残業減らすんでしょ?」
「ぶっちゃけ、実情と合っていない改革なんじゃないの?」
今回の記事では、そんな人たちに向けて働き方改革の基本的なところをお伝えしようと思います。
具体的な法律内容というよりは、「そもそもなぜ働き方改革とか言っているの?」のようなコンセプトから攻めていきたいと思います。
子どもや部下、学生から「働き方改革って何?」と聞かれた時、たらたら愚痴を並べたり具体的すぎる法律の変更点を述べたりするのではなく、その本質を教えられるようになってみませんか?
働き方改革は生産人口減少への対抗策
最初に「働き方改革の3つの柱」を示しておきます。
- 労働時間の見直し
- 同一労働同一賃金
- 多様な働き方の実現
この三つ以外にも様々な改革が行われますが、根本的なところはこの三つです。
ではそもそもなぜ「働き方改革」が叫ばれているのか?
政府レベルで取り組んでいるのか?
産業構造が変わっているからでしょうか。
それは結構前から言われていることですよね。
労働基準法は第三次産業向けの設計ではありませんでした。
やっと変える気になったのはある問題への直面が近づいてきたからです。
その問題とは?
そう、「生産人口の減少」です。
2015年には7700万人いた生産人口が、2040年には6000万を割り、2065年には4500万人まで減少するとされています。
(http://www.ipss.go.jp/pp-zenkoku/j/zenkoku2017/pp29_gaiyou.pdf)
去年、2018年には、総人口に占める生産人口比率が60%を切りました。
生産人口が減少するとどうなるのか?
仮に生産性(質)が一定の場合、生産人口(量)の減少はGDP低下に繋がります。
基本的に、国はGDPの低下を嫌います。
せっかく経済政策やら何やら打っているのに、このままだとGDP低下は確実。
だからこの問題に対する打ち手を考えなければなりません。
その打ち手こそが「働き方改革」です。
働き方改革の3つの柱
生産人口減少に対してどのようなアプローチをとればいいと思いますか?
まずは単純に考えましょう。
一つは生産人口(量)の減少に対して、生産性(質)を上げるアプローチ。
日本人の労働生産性は外国に比べて非常に低いとされています。つまり伸びしろはあるわけです。
AIやRPAなどの技術も発展してきているので、生産性の向上は良いアプローチになりそうですね。
もう一つ、それは生産人口(量)の減少を抑制するアプローチです。
これはさらに二つの方向性に分かれます。
一方向は「生産人口」を増やすこと。
つまり今までは「生産人口」としてカウントされていなかった人たちを「生産人口」にしていくわけです。
厳密な定義を気にせず例を出すと、高齢者や外国人、その他現在働いていない人たちが当てはまります。
別方向は「生産人口」のもとになる「人口」自体を増やす(減少を抑制する)こと。
これは出生率の向上、移民の受け入れなどです。
特に出生率の向上は政府もずっと気にしていることになります。長期的な視点にはなりますが、力を入れたい方向性でしょう。
これらのアプローチをもう一歩抽象的にまとめると、
になります。
ここで「働き方改革の3つの柱」に戻りましょう。
覚えていますか?
- 労働時間の見直し
- 同一労働同一賃金
- 多様な働き方の実現
の3つですね。
働き方改革の柱① 労働時間の見直し
日本人の労働時間は長いことで有名。
でもGDPを下げたくないのあれば、労働時間(量)を減らすというのは矛盾していると思うかもしれません。
実際、高度経済成長のときに全力で働いてくれた人々がいるから今の豊かな日本は実現しているのです。
しかし時代が変わりました。
長い時間働くほうが生み出せる価値も大きくなるという単純な時代は終わったのです。
そこで労働時間の是正。
まず短期的アプローチの視点から考えると、これは生産性の向上につながります。
実は、労働時間というのが厳密に計測されていない現状があります。
それをまずきっちり把握することで、より効率的に価値を生み出す工夫ができないか考える。
これが一本目の柱の核となります。
つまり、形式的に「働き方改革だ! 残業せずに帰れよ!」ではいけません。早く帰らされるがために、朝早く来たり、家で仕事していては意味がありません。むしろ悪化です。
やるべきなのは「残業を減らすために何ができるか考える」ことなのです。
労働時間の厳密な計測と各種制限はその契機にすぎません。
しかしこの辺りは制度と現場の食い違いが起こりやすいところでしょうね。
次に長期的アプローチから一本目の柱について考えてみましょう。
長時間労働は家庭環境にも影響を与えます。
女性のキャリア形成を阻害したり、育児が難しいことから出生率が低下したり、健康に害を及ぼしたり。
労働時間を減らし、男性も家事の手伝い等することになれば女性の社会進出や出生率の上昇が望めます。
長期的に生産人口(量)減少の抑制につながるわけですね。
働き方改革の柱② 同一労働同一賃金
同一労働同一賃金とは、「同じ仕事をしたら同じだけ給料がもらえるようにしよう」ということです。
つまり、正社員とそれ以外の労働者の扱いを平等にしたいのです。
政府は「非正規という言葉をなくしたい」と表現しています。
非正規労働者にあたる人々は、「給与が上がりにくい」や「教育・訓練機会などが少ない」「保証が少ない」などの状況にありました。現在は少しずつ改善の動きを見せていますが、まだまだといった印象です。
この状態では生産性の向上は望めません。モチベーションの欠如、環境の不足などが生産性の向上を阻害しているのです。
非正規労働者は4割近くを占めています。
この状況が続けば「住みやすく、働きやすい国」の実現は不可能です。
だから、正規労働者と非正規労働者の間の不合理な差別を排除したいのです。
「非正規だから……」という理由の消失が同一労働同一賃金のコンセプトになります。
現在の非正規労働者の環境が良くなれば、生産性だけでなく生産人口も変わってきます。
65歳以上の高齢者の7割が働きたいと考えているにもかかわらず実際に働いているのは2割ほど。
正規社員として働いてきた人々が非正規に「身を落とす」ことを拒否していることも理由にあるのではと思います。
働き方改革によって同一労働同一賃金が実現すれば、より多くの高齢者に再チャレンジの機会が生まれるのではないでしょうか。
働き方改革の柱③ 多様な働き方の実現
三本目の柱が「多様な働き方の実現」です。
これは主に生産人口を増やす狙いがありますが、生産性の向上にも繋がります。
代表的な例は「テレワーク」。
リモートワークなどと同じような意味ですね。
オフィスに行って働くのではなく、家やその他の場所で仕事を行うスタイルになります。
例えば育児や介護などのため、仕事を辞めざるをえない人々がいます。
本人も働きたい、会社も辞めてほしくない。それでも辞めてしまうのはもったいないことです。
テレワークがあれば、従来通りの仕事は無理でも、育児や介護の間をぬって仕事に参加できるかもしれません。
このように、それぞれの人の生活にあった仕事の形を整備していくことが三本目の柱の目的になります。
他にも、副業・兼業の解禁や、外国人労働者への支援、リカレント教育の整備などがあたります。
『LIFE SHEFT』で提示されている人生100年時代。
もはや、単一の働き方で人生を終えられる時代は終わったのです。
その時代で人々が生きていくための環境整備を、政府も進め始めたのです。
以上、「労働時間の見直し」「同一労働同一賃金」「多様な働き方の実現」の3つの柱についてご理解いただけたでしょうか?
この記事では具体的な数字や法律についてはあまり書いていません。
興味を持った柱からでも、データや法律の変更点、これまでの経緯などを調べてみてください。
まずは働き方改革がなぜ必要なのかを理解し、その後は興味のあるところから知っていきましょう。
改革実現会議で話し合われた9つのテーマ
最後に、働き方改革の最初、「改革実現会議」にて話し合われた9つのテーマもまとめておきます。
上の3本の柱ではピンと来なかった人も、より具体的なテーマなら自分に近づけて考えることができるかもしれません。
- 同一労働同一賃金など非正規雇用の処遇改善
- 賃金引き上げと労働生産性向上
- 時間外労働の上限規制の在り方など長時間労働の是正
- 雇用吸収力の高い産業への転職・再就職支援、人材育成、格差を固定化させない教育の問題
- テレワーク、副業・兼業といった柔軟な働き方
- 働き方に中立的な社会保障制度・税制など女性・若者が活躍しやすい環境整備
- 高齢者の就業支援
- 病気の治療、そして子育て・介護と仕事の両立
- 外国人材の受け入れの問題
どうですか?
興味のあるテーマ、あなたに関係しそうなテーマ、見つかりましたか?
働き方改革-"一億総活躍社会"を目指して
「働き方改革」
また政府が何か言っているくらいのイメージの人もいるかもしれません。
政府は働き方改革を「最大のチャレンジ」として位置づけ、「社会の発想や制度を大きく転換しなければならない」と述べています。
日本で生き、働く人にとって、働き方改革は他人事ではないのです。
社会を大きく変えるのはいつだって民衆側。
しかしこと働き方改革に関しては民衆の力だけでは難しいので、政府も出張ってきました。
文句や期待だけでなく、自らも働き方改革のために行動したり、発想を変えられるようになりたいですね。