日本でも選択肢が限定的であったメガネ
一昔前の日本では、メガネは比較的価格が高いもので、安価な価格帯の選択肢が余りない商品でした。21世紀に入り、比較的リーズナブルな価格でファッショナブルなメガネを提供する企業が現れます。
JINSブランドを展開するジェイアイエヌ社を筆頭に、新興SPA企業がメガネ業界の常識を変えたのでした。ご存知の方も多いかと思いますが、SPAとはSpecialty store retailer of Private label Apparelの略です。
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SPAを簡単に説明すれば、製造から小売りまでを統合した販売業態を取る企業です。SPAという言葉を作ったGAP社がその代表例で、日本ではユニクロがSPA企業の代名詞であると言われています。
新興企業の台頭で、メガネ業界ではそれまで考えられなかった1万円以下の商品や、統一価格での販売が実現されます。これに伴いアイウエア市場も堅調に推移して、2014年度の売上高は約4,800億円まで成長しました。
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新興企業が市民権を得て、現在ではメガネ業界をけん引しているイメージがありますが、業界で最大の売上を記録しているのは、老舗の三城ホールディング社です。569億円を売り上げた三城ホールディングに続くのが、JINSブランドのジェイアイエヌ社で365億円の売り上げを達成しています。しかし3位は愛眼、4位はメガネスーパーと、昔からある古参企業という結果を見ると、新興メガネ企業が成長する余地はまだまだあるようです。
メガネ業界の構造は、過去、アメリカでも日本と似通った状況でした。安価な商品が少なく、選択肢も余り無い状況でした。この業界構造を打ち破り、今日では“世界でもっともイノベーティブな会社”で1位に選ばれたメガネ企業があります。Warby Parker社をご紹介いたします。
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メガネが高くて買えず、メガネなしで過ごした1学期
Warby Parker社はアイビーリーグの名門、ペンシルベニア大学ウォートン校に在籍していた4人の学生達によって設立されたスタートアップでした。
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ことの始まりは、共同創業者の1人Jeffery Raider氏が、バッグパック旅行に出かけメガネを紛失したことから始まります。
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旅行から帰ってきたRaider氏がメガネ屋に行きます。しかしメガネ屋に並んでいるメガネはどれも高価で、且つデザインも満足できるものではありませんでした。
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結局、Raider氏はメガネを買わず、一学期の授業をメガネなしで受けることになります。
メガネなしの生活は想像以上に困難で、フラストレーションが溜まるものでした。この時期、Raider氏の口から出る文句の数は非常に多く、周りの友人達も彼に同情します。
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同じような経験を持つ友人達は、あることに気が付きます。メガネ業界は1社に独占されていて、価格競争が生じない構造になっている。消費者は不当に高い価格を支払う以外の選択肢を持っていないという結論に達します。
“メガネ業界に革命を起こす”という信念のもと、2010年にRaider氏の他に、Neil Blumenthal氏、Andrew Hunt氏、David Gilboa氏の4人でWarby Parker社をニューヨークで起業します。
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メガネを買う消費者に対し、今までにない選択肢を提供することを目標に、どのようにすればそれを実現できるか4人は考えます。メガネ業界の古い商流を変えて、自社でデザイン性に優れた商品を製造して、自分達でお客様に直接販売するビジネスモデルを作ります。
日本のジェイアイエヌ社などが行っているSPAを取り入れたのです。しかし日本のSPA企業と大きく異なる点が、Warby Parker社にはあります。店頭販売が主流な日本とは対照的に、設立当初のWarby Parker社はネットで商品を販売していました。
この方法は年間売上高がU$1億(約105億円)を超えた今日でも、実店舗は限定的でネット販売が同社のメインストリームです。
メガネ選びは本来楽しいもの
Raider氏の過去の体験から、メガネ選びは本来簡単で楽しいものでなければいけないとWarby Parker社は考えます。社名のWarby とParkerは小説の登場人物の名前から取ったものであり、同社の商品も文化人の名前を使用したりと、洒落た感覚が消費者の興味をひきます。
価格U$95(約1万円)が主体の商品ラインナップ、デザイン性に優れた商品群、ネットで手軽に購入できる点が、瞬く間にWarby Parker社が消費者に受け入れられた理由です。
また、社会貢献にも相当な力をいれているのがWarby Parker社の特徴の1つでもあります。世界中で10億人の人々が、メガネを持っていないために苦労しているというデータを見た創業者達は、この数字に驚きます。
地球上の15%に相当する人々が、メガネが無く苦しんでいる現状を鑑みて、メガネが1個売れる毎にメガネ1つを寄付する仕組みを作り、現在でも実行しています。
出典:www.scienceinpublic.com.au
グーグルやアップルを押さえて受賞
このような取り組みや消費者に対し親切すぎる称される対応が評価され、ビジネス雑誌が選出する“最も革新的な企業ランキング”で2015年に第一位を獲得しました。
アップル、グーグル、マイクロソフトなどを押さえての受賞は価値があるものと言えると思います。Warby Parker社は常に新たな取り組みにチャレンジしています。2014年の終わりには、追加料金を払うことにより注文から24時間以内に商品を届けるサービスを開始しました。
これもメガネが無いと、如何に不自由な生活を余儀なくすることを実体験として知っているからこそ、考えつくアイデアだと思います。
今後も更なる発展が期待出来るWarby Parker社に注目です。