ロゴの世界へようこそ
突然ですが、好きな 「企業ロゴ」 を1つあげてください。
筆者はこれが好きです。
出典:about.van.fedex.com
国際航空便で有名なFedExのロゴです。
その理由は、EとXの間の部分です。よく見てください。実は、矢印が隠されています。
この矢印は、FedExの売りである、「スピード」と「正確さ」を表現しています。
実は、企業のロゴには、ひと目見るだけではわからないような、その企業ならではの深い想いや熱い情熱が込められているのです。
そこには、単なる「ホームページの左上にあるマーク」を超えた、深い世界が広がっています。
今回は、ロゴに秘められた企業の想いをご紹介します。
いつも使っているあのブランドも、ロゴの裏側を知れば、もっと使うのが楽しみになるかもしれません。
ロゴに企業が投資する理由
まずは、なぜ企業はロゴをつくり、大々的に使っているのかを考えてみましょう。
ロゴをつくったところで、それ自体が売り上げにつながるわけでもないのに、なぜ企業はわざわざ相当な額を投資して、一流のデザイナーにロゴ作成を依頼するのでしょうか?
そのヒントは、人にはあって、企業(法人)にはない「あのパーツ」にあります。
出典:www.pakutaso.com
そのパーツとは、「顔」です。
「人は見た目が9割」という言葉があるように、人間が五感から得る情報の約9割は、視覚からの情報といわれています。
あなたも、仲のいい親友を1人思い浮かべてください。まずは見た目、それも顔から思い浮かぶ方が多いのではないでしょうか。
しかし、法「人」ともいわれるにもかかわらず、企業には顔がありません。
そこで、企業の顔として、その企業の文化や価値を、ロゴとして体現しているのです。
同じ顔でも、せっかく自分で選べるならすてきな顔がいい。そこで、企業は外部のデザイナーを招き、何度も議論を重ねて、丁寧に丁寧にロゴをつくりこんでいきます。
では、企業が丹念に仕上げたロゴ世界を、そこに秘められたバックグラウンドを振り返りながら訪ねてみましょう。
ロゴ探訪第1章:JRグループ
まずは、みなさんご存知、JRグループです。
JRといえば、北から北海道、東日本、東海、西日本、四国、九州、そして貨物と、7つの会社に分かれています。そのすべてが共通して使っているのが、このマークです。
出典:www.ndc.co.jp
JRの英語名Japan Railway Companyを、端的に表現したこのマーク。
このロゴが表現するのは、「スピード感と安定感」です。
一筆書きでスピードを演出しつつも、「R」の斜めの支えがどっしりと大地に根を張っています。
一見シンプルなデザインに見えますが、実は前後に折り返しながら進む鉄道車両で、右から見ても左から見ても違和感がないように、デザインの微調整がされています。
このグループ共通のJRマークを、7社それぞれが走る地域をイメージしたカラーで色づけすることで、各社のアイデンティティと、グループとしての一体感を演出しています。
出典:www.ndc.co.jp
このロゴをデザインしたのは、1964年の東京オリンピックのポスターやトヨタ自動車のロゴなどを考案した日本デザインセンター(NDC)の、梶裕輔氏を中心とするチームでした。
出典:www.tcc.gr.jp
このデザインが決定してから民営化まではわずか2ヵ月半しかありませんでした。
その間に、”7社の社名ロゴおよび各社カラー、アプリケーションの開発、マニュアル制作、記者発表用キット、各社のキップなど膨大な制作物をこの期間で仕上げること”が求められました。
異例の短期間にもかかわらず、NDCは1987年4月1日の民営化初日から全国のすべての営業車両にマークを貼って走ることを国鉄に提案しました。
3月31日の終電から始発までのわずか4時間で、全国で1万にも及ぶ多彩な形式の車両すべてにマークを貼りつけることは、そう容易なことではありません。
しかし、NDCは各車両ごとに貼り付け指示書を作成し、全国の国鉄職員に配布しました。あまりにも時間がなかったため、その図面は手書きだったそうです。
ロゴ探訪第2章:ソフトバンク
つぎは、通信業界の雄、ソフトバンクです。
ソフトバンクといえば、孫正義氏が創業し、今や6兆円を超える売上を誇るという、最も成功した日本発ベンチャーの1つです。
また、無形財という差別化しづらい商品を扱うなかでも、ブランド価値の強化に特に力を入れている企業でもあります。
そんなソフトバンクのロゴが、こちらです。
出典:www.softbank.jp
非常にシンプルな、グレーの二本線。たったこれだけで、6兆円企業のブランドを体現しています。
このロゴが表現するのは、「情報革命」です。
孫氏が尊敬する坂本龍馬が率いた、海援隊旗をモチーフにしています。
出典:ja.wikipedia.org
坂本龍馬は、時代の一歩先を想像する思考力と、それを実行する実行力に優れた人物でした。海援隊は、彼の思考力と実行力のもと、幕末の世に革命的な変化をもたらしていきました。
旧態依然の古い制度の枠にとらわれず、自由な発想と大胆な実行力で日本を変えた、海援隊。
ソフトバンクも、海援隊のように未来の人々に驚きを与え、そして幸せにしたい、それを情報の力によって実現したい。
そのような思いから、「21世紀の海援隊旗」を組織の象徴にすえました。
このデザインを手がけたのは、ペプシコーラやカップヌードルなどのプロモーションを手がけた、アートディレクターの大貫卓也氏です。
出典:www.acc-cm.or.jp
「結局、ソフトバンクの魅力って孫さんそのもの。孫正義自身がビジョンそのものなんです。だから、それを表現するしかないと。(中略)この形は『イコール』を示している。つまり、『答えを出す』という行為の象徴。(中略)孫正義そのものが、この『イコール』に全部表現されているんです」
(山下和彦,関田理恵,『ヒット商品のデザイン戦略を解剖する』,ピエ・ブックス,2008年)
大貫氏は、ある本の中でそう語っています。
ロゴ探訪第3章:面白法人カヤック
最後は、「日本一面白い会社」を自負する、面白法人カヤックです。
「面白いこと」を基準に、Webコンテンツを展開するこの会社。
ホームページの業務内容欄にも、大きく「日本的面白コンテンツ事業」と書くほど、とにかく「面白いこと」にこだわる会社です。
ちなみに、社員の給料までも面白いことを基準に決めています。
これに関しては、「福利厚生って必要?実は奥が深い福利厚生3選!」で紹介しています。
気になる方は、ぜひごらんください。
そんな面白い会社のロゴが、こちらです。
出典:www.kayac.com
このマークの一番の特徴は、「動くこと」です。
カヤックのHPでは、3本のオールが左右に動いています。
静止画が当たり前だったロゴの常識を打ち破った背景には、”変化を怖がらず、むしろ積極的に変化していきたい”という、デザイナーの想いが込められています。
3本のオールは、カヤックの3人の創業者、柳沢大輔氏、貝畑政徳氏、久馬智喜氏を表現しています。
出典:www.kayac.com
しかし、社員数が増えるにつれ、カヤックの漕ぎ手は3人ではなくなりました。そこで、3本のオールのうち1本は、各社員が自由にデザイン変更できるようになっています。たとえば、コピーライターなら鉛筆、野球ゲーム製作者ならバット…という形です。
これは、カヤックの企業理念「つくる人を増やす」を体現するためでもあります。1人の社員であっても、自分の働く会社のロゴを、自分の感性でつくることができるのです。
さすが、「日本一面白い会社」を自負しているだけはあります。常識破りの取り組みの中に、会社の目指す行き先や想いを見事に表現しています。
このロゴをデザインしたのは、社内デザイナー(当時)の佐々木智也氏と、山下大介氏です。
出典:www.kayac.com
佐々木氏は、鼻で味わう焼肉体験「鼻焼肉」アプリや、エナジードリンク ” RAIZIN “ などのプロモーションを、
山下氏は、プロジェクションマッピングを用いた、三菱自動車「アウトランダーPHEV」の商品紹介動画や、日経新聞電子版のプロモーションなどの案件を成功させた実績があります。
常識にとらわれず、あらゆる商品の魅力を引き出してきた商品プロモーションのプロだからこそ、カヤックの面白さとそこに秘められた想いを見事に表現できたのではないでしょうか。
ロゴの世界 まとめ
ロゴの世界を、お楽しみいただけましたか?
まだまだ、紹介したいロゴがたくさんありますが、それはまたの機会にします。
ただ、人に教えたくなるような魅力的なロゴがたくさんあるということは、その数だけ深い想いを持った企業があるということでもあります。
まわりを見渡してみてください。今あなたがいるこの場所にも、企業のロゴがありませんか?
もし見つけることができたなら、一度、そのロゴに秘められた企業の想いを調べてみてください。きっと、その企業を見る目が変わることと思います。