ファンドの持っている株式の議決権をなくすことで、後継者の実質的な経営者になる
嶋内:事業承継ファンドのスキームを教えていただけますか?
松本:このファンドは、まだあまり他ではないんですが、後継者を支援するファンドというものに特化しています。実は私もフューチャーベンチャーキャピタルの3人目の社長なので、ある意味後継者です。
ただ、弊社は上場していますので、保証の問題や株式の問題は、それほど持たずに、保証も引き継がず、保証はそもそもない形で経営者をさせていただくことになりました。
普通の中小企業で親族でない方が後継者になったときに、どうやって保証を引き継がせるのか、あるいは引き継がせないのか。株式をどうやって新しい経営者に渡していくのか。そういうところは、すごく大きな課題です。
もっと言うと、赤字で再生が必要な会社であれば、株式の価値自体はほとんど無価値ですので、後継者に渡すことはできます。けれども、今利益も出ていて、取引先もたくさんあって、株式の価値もある会社を後継者に渡そうと思うと、後継者が借金をして買うしかありません。保証も引き継がなきゃいけない。「そんなの、できますか?」と考えたんです。
よくあるのは、代表権を持たずに、あくまでも社長として後継者の方が入って、一定程度経営を回したうえで、徐々に株式を渡していくっていう話はあるんですが、実はこれも結構問題があります。
基本的に、創業者が後継者を決めたと思っても、後継者は経営経験がそれほど多くない人も多いので、目につくところがたくさんあり、前社長がしゃしゃり出てきます。従業員も、基本的にはオーナーの方ばかりを見ていますから、誰も新しい経営者についてこないんですよね。
逆に後継者が頑張って経営が上手くいったとしても、今度は前社長が、自分から従業員が離れていくことに嫉妬し始めます。もしくは、「数字がそこまで良くなったんだったら、娘や婿に継がせる、とか、やっぱりやめた」と言いだす可能性もあるんです。
こういったことは、前オーナーと新しい経営者との間で、事業の引継ぎを行うのは難しいです。株価をいくらで買い取っていくのか、ということも含めて、すごく利害が相反するケースも多いので。
「そこに第三者が入らないといけないんじゃないか?」と常に考えていました。その中で、ファンドはそういった会社の、オーナーが持っている株式を、一旦全部買い取ります。後継者は、ファンドが買ったときに一部だけ出資します。これだけになると、ファンドの会社になってしまうので、あまり意味がありません。
このスキームで大事なことは、ファンドの持っている株式の議決権をなくすことです。つまり、種類株というものに変えるんです。そうなると、少しでも出資したら、後継者が実質的な経営者になります。議決権を全部持ちますので、経営できるわけです。
オーナーはもちろん、権限がありません。経営のアドバイスはしてくれてもいいんですが、実権は全部後継者が持ちます。ファンドはどうするのかというと、後継者がきちんと業績を3年から5年で伸ばしていけば、企業が出した利益で、ファンドの持っている株式を、自社株買いをしてもらうことで、利益を獲得します。
企業がファンドの持ち分を買い取って、最終的に3年から5年でファンドの持ち分が0になる。そうなると、最終的に後継者が100%になりますので、早く業績を伸ばせば伸ばすほど、ファンドが早くいなくなります。
ファンドは、後継者を全面的に支援し、本当に事業を回すところに対して支援をします。どうしてもオーナーからすると、本当にその人は経営できるのかな?という不安ももちろんありますが、そこはファンドが全面的にサポートする、という仕組みを作りました。
嶋内:そんな重要なノウハウを公開してもいいんですか?
松本:まだ、実はいっぱいあって。
嶋内:まだまだあるということですね。
事業承継型ファンドは、地域金融機関の付加価値を高める
嶋内:実需に合った、いろんな問題課題を解決する武器というイメージがすごくわきますね。ところで、ファンドというのは、例えば従業員の方でも親族の方でも大丈夫ですか?
松本:大丈夫です。最近多いのは、ヘッドハンティング会社が新しい社長を連れてくるケース。そういうマッチングをやっている会社もたくさんありますので。でも、連れてきた社長が、もちろん皆がお金持ちなわけではありません。企業の株式を買えない場合がほとんどですので、そのときは雇われ社長をやるしかないんですね。さっきの問題が起きると。そうではなくて、そのときにはもうファンドがついて、後継者に全部権限を渡します。
嶋内:一方で、後継者の経験不足というところを、ファンドで、いわゆるいろんな経営のサポートをされた方が支援していくという、そういうスキームですね。
松本:そうです。もっと言うと、それを地域金融機関ができるようにする。だからこそ、地域金融機関としての価値があるんです。
嶋内:なるほど。ファンドを司る会社が特定のエリアにいらっしゃるので、地方全体にいくわけにはいかないので、その地方の皆さんを育てていくという。そういうことなんですね。
松本:そうです。
嶋内:それはまた、新たに金融機関の役割。間接金融しかなかった、間接金融でもっとリスクがとれた時代の、金融機関のあるべき姿にまた戻っていくという。そういうことなんですね。
松本:そうです。
嶋内:すごいことを考えられましたね。これは、参考にしたどこかの国の金融スキームの事例が何かあったんですか?
松本:いや、まったくないんですよ。単純に、我々が創業期の会社に投資しているスキームが、まさに自社株買いで回収するというモデルですので。「これは、むしろ事業承継期の会社のほうがニーズがあるんじゃないか?」ということを考えて、モデルケースを作りました。
嶋内:なるほど。そうすると、たとえば将来社長になりたい人。でも、何をしたらいいかわからない方。一方で、地方に貢献したいという若者の方。そういう方にもまた選択肢が増えるものになってくるということですね。
松本:はい。
事業承継型ファンドが活用できないケース
嶋内:なるほど、ありがとうございます。一方で、このファンドを活用しないほうがいいケース、もしくは、できないケースなどもありましたらお伺いしてもよろしいでしょうか?
松本:自社株買いというモデルですので。自社株買いは配当と一緒ですから、いわゆる、企業が利益を出さないといけません。もっと言うと、内部留保がないと自社株買いはできないんですね。ということは、赤字企業や累積損失がたくさんある会社さんはできないんです。
ただ、そういう会社は、そもそも株式企業価値がほぼ0に近いので、別にファンドを用いなくても、後継者に渡そうと思えば渡せるので、あまりニーズもありません。利益として1000万円くらいは出ているほうがやりやすいと思います。
嶋内:なるほど。利益が出ていることにより起こる株価の問題。また、利益があるからこそ解決できるスキームである、という。そういうものであるということですね。
松本:そうですね。利益があるからこそ、残すべき会社だということを含めてですね。
嶋内:なるほど。深いですね。よくわかりました。本当にベンチャーキャピタル事業は独立ベンチャーキャピタルとして、地方に本社を置いて20年近くなさっている中で、「ファンドってもっと他に使える可能性があるんじゃないか?」ということから、こういったコンセプトになられたということですね。
松本:そうです。
嶋内:よくわかりました、ありがとうございます。そうしましたら、本日は地方創生と事業承継ファンドということで、フューチャーベンチャーキャピタル代表の松本さんにお話をお伺いしました。松本さん、ありがとうございました。
松本:ありがとうございました。