今回は元リクルートのトップ営業であり、現在は営業強化のコンサルタントとして活動している リクルートマネジメントソリューションズの的場正人氏に、著書「リクルートのトップ営業が後輩に伝えていること ―一人前の営業になる6つの習慣」のポイントについて伺いました。
書籍を書こうと思った背景
私は、営業力強化のコンサルタントとして、様々な業界・業種で成果を出している営業に何人も会ってきました。「売れている人と売れていない人の違い」「楽しそうな人とつまらなそうな人の違い」「伸びる人と伸び悩む人の違い」について特徴を挙げようと思えば100でも200でも挙げられると思います。
しかし、その違いを全て伝えたとしても、多くの人にとってはあまり参考にはなりません。私がこれらの違いが生まれる理由を掘り下げていった結果、その要因として、日々の動き方や考え方、習慣の違いなどが6つにまとまりました。それがこの書籍でまとめている「6つの習慣」です。
この6つの習慣は、若いうちに身に付けないと後から変えるのは大変です。特に営業はスタートしてから2~3年の間に「営業とはこういうものだ」というものの見方が固まってきます。その時に、この6つの習慣が土台として整っていることが、将来の成長を大きく加速させます。
第1の習慣
第1の習慣は『お客様にがむしゃらにぶつかり、やりきることを通じて学ぶ習慣』です。本当の意味での価値提供・価値提案ができる営業になろうと思ったら、まずは徹底的にお客様と会うことが大切です。しかし、ただ会えばよいというものでもありません。「お客様の生の声を、どの営業よりも自分が一番聞いている」という状態が営業の強みになります。
インターネットで検索すれば出てくる情報を二次情報といいますが、誰かが集めて整理してくれた情報にはあまり価値はありません。一次情報、つまりお客様から直接聞かないと得られない情報の先に、営業としての自分にしか出せない価値があるということです。私自身、リクルートに入社した頃、当時は求人情報誌をお客様に買っていただく営業を担当していました。1日40~50件の飛び込み営業をしていましたが、その頃は、10件行って9件は断られて帰るような毎日で、最初はなかなか受注も決まりませんでした。
断られ続けてモチベーションがダウンし、動けなくなってしまう新人がいるという話もよく聞きますが、とにかく私はそこで足を止めずに、お客様に話を聞くことを徹底しました。最初は雑談程度から始まり、このエリアはどんな特徴があるのかとか、お客様はどんなことに興味があるのかなどを徐々に聞けるようになり、自分が一方的に話していたら気がつかなかった色々な気づきが出てきます。
最初は「なぜ自分はこんなに頑張っているのに、この社長は話も聞いてくれないのだろう」と思っていたのですが、あるタイミングで、社長の立場に立ってどういう気持ちで断っているのかを考える瞬間があったのです。
そのエリアの7~8割の会社は家族経営で、身内だけでひっそり経営をしていきたいと考えていた社長が多かったため、彼らは人を採用する必要は全くありません。ただ残りの2~3割の社長は、本当は会社を大きくしていきたいと考えていながら、「自分たちの会社に若い人が来てくれるわけがない」と諦めていることに気がつきました。
私が営業として一番大事な気づきだったと思うのは、「うちの会社は、採用はやってないよ」と断る、その裏にある社長の真意を察してあげられるかどうかでした。そこに気がついてからは、お客様への聞き方が変わっていきました。
例えば、お客様に「どうせ若い人なんか来ないから、採用なんてしないよ」と言われると、新人の私は「若い人が採れないから、この人は採用しないのだ」と、断られたと思って帰っていました。しかし、その裏の真意は「若い人が採れるなら採用したい」ということでした。
「若い人が来ないから採用しない」という社長に「分かりました。ちなみに社長、この先もずっと採用することはあり得ないですか?」と聞くと、何かしらの思いを話してくれるのです。「ずっとではないけどなあ」「採用してもどうせすぐ辞めるからなあ」とか。そういう社長に「なぜそう思われるのですか?」と聞くと、実は「(若い人がちゃんと採用できて長続きしてくれるなら)採用したい」という思いがわかってきます。
そこから「若い人が採用できない」という、私にとって断られ文句だったものが、チャンスキーワードに変わったのです。おそらく、エリアによっても言われるセリフは変わるので、自分の足で動いてそのエリアの生声を聞かないとチャンスキーワードは分かりません。このチャンスキーワードを捉えることで、自分で営業としての階段を昇ることができたと感じています。それが入社1年目の内に私が身に付けた最大の宝です。
新人の皆さんにまず身に付けてほしいのは、とにかくお客様に誰よりもたくさん会うこと。そして、一方的に話すのではなくて、お客様の声を聞くこと。聞くことを通じて、お客様の本当に困っていること、欲していることは何かを自分なりに考えながら動くというのが、営業の土台です。これが第一の習慣です。
第2の習慣
第2の習慣は『成長するものの見方に変える習慣』です。営業は必ず結果を問われます。うまくいく時もあれば、うまくいかない時もあるでしょう。この差がついてしまうのは、うまくいっていない、よくないことが起きた時に、どう自分をコントロールできるかが、勝負の分かれ目となります。
例えば、お客様からクレームが来た、コンペで競合相手に負けて失注した、あるいは、営業目標が未達に終わってしまった、こういう思わしくない出来事が起きた時に大切な考え方が「他責と自責」です。他責とは、その要因を自分以外の何かのせいにすることです。「与えられたエリアが悪い」「商品が悪い」「上司が教えてくれない」など、これらは全て他責といいます。
一方自責とは、自分の中に原因を求めます。例えば「訪問件数が足りなかったのではないか」「お客様に対してのヒアリングが弱いな」「商品知識が足りないな」など、このように自分の中に原因を求める考え方を自責といいます。
注意してほしいのは、問題の要因分析をする時に、他責の考え方をしてはいけませんということではありません。自責・他責の両面から考え、何が要因なのかを適切にとらえることが大事です。ただ、「自分の成長」とか「将来のなりたい自分に近づくために」というテーマを置いた時には、他責の考え方ばかりでは、成長に繋がりにくいということです。
自責の考え方は、成長に繋がる考え方、ものの見方です。例えば「行動量が足りなくて成果が出なかった」という仮説のもと、「じゃあどうすれば解決できるのか?」と問いを立ててみると、様々なアイデアが出てきます。1日に5件訪問するという計画を決め、それができているかどうかのPDCAを毎日回すことも1つの案です。あるいは、メンバー全員で訪問件数を競い合ってみるのもいいかもしれません。
もし「ヒアリングが弱いから成果が出ない」のであれば、先輩に付き合ってもらいロールプレイングで練習するとか、訪問前にお客様のIR情報や業界のことを調べてから訪問するなどの工夫ができます。つまり、自責の考え方の先には、自分次第でどうにでもなる創意工夫やアイデアが多く生まれ、それを実行する度に成長に繋がるのです。
おわかりいただけたでしょうか?他責で考えるなということではありません。大事なことは、考えている時間の長さです。人生の大半の時間を他責で過ごすことは、多くの時間を成長に繋がらない時間として過ごすことになります。私がお会いしてきた成果を出している方々は、人生の95%を自責の考え方で生きていると思います。つまり自責で物事を捉え、自責で今何ができるのかを考えているのです。
自分が他責になっていると気づけること、気づいた時に自分でそれを自責へとコントロールできる、この感覚が掴めれば、この第2の習慣は定着したといっていいでしょう。
第3の習慣
第3の習慣は『売れ続ける営業計画を立てる習慣』です。営業は短期の目標数値に追われがちですが、大切なことは短期と中長期を両立することです。
短期視点で、課せられた目標数字を達成するために必要なことを見極め、計画的に進めていく営業の考え方を狩猟型営業といいます。一方、中長期視点で、重要なお客様に計画的にアプローチを続け、何かあったら声をかけて頂ける関係を築き、安定的に業績を挙げ続ける営業の考え方を農耕型営業といいます。
新人にまず身に付けてほしいのは、目標数字を達成する短期視点での狩猟型営業です。狩猟型営業の計画の仕方を確実に身に付けると同時に、狩猟型営業そのものは7割くらいの力で終わらせ、残り3割を農耕型営業、つまり2~3年後の将来を見据え、何かあった時に、絶対自分に声をかけてくれるようなお客様を作る時間を割かないといけません。
そうは言っても、全てのお客様にそのような足の長い営業ができないことも多いので、自分が担当するお客様の中から特に重要なお客様群を絞り、その中から中長期視点で声がかかる状態を作っていく、これらのことを両立するのが第3の習慣です。重要なのは、「売れる営業計画」を立てることではありません。「売れ続ける営業計画」を立てる習慣、これをぜひ身に付けてください。
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著者紹介
(株)リクルートマネジメントソリューションズ エグゼクティブコンサルタント
1993年リクルート入社。96年より現在のリクルートマネジメントソリューションズ
へ在籍し、営業の最前線で98年から2001年まで4年連続でMVP.VPを受賞。02年から
営業マネジャーになり、2年連続で最優秀営業課賞を受賞。その経験・実績を活か
し、08年より営業コンサルタントとして数多くの企業の組織強化および営業マネジ
ャー、営業担当の教育に携わっている。
営業組織における勝ちパターンの構築・浸透プロジェクト、これからの時代に通用
する価値提案営業が出来る営業を組織ぐるみで育てる営業教育体系構築プロジェク
トなどの経験・実績を豊富に持つ。 顧客に提供した価値の大きさや生み出したナ
レッジの組織貢献の大きさなどで評価する全社コンテスト「ナレッジグランプリ」
においても歴代最多受賞履歴を持つ。
北海道大学工学部機械工学科卒業、航空機自家用操縦士・航空機事業用操縦士資格
保有、著書に「リクルートのトップ営業が後輩に伝えていること ~一人前の営業
になる6つの習慣」(日経出版)がある。リクルートグループはもちろん、社外講
演も多数こなし、いずれも好評を博している。