今回のインタビューは、『Startup Science』をお書きになった田所雅之氏にお話を伺いました。第1弾は「執筆の経緯」です。
(聞き手:アントレプレナーファクトリー代表 嶋内 秀之)
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執筆の経緯
-なぜこれだけたくさんのボリュームのスライドを書かれて、公表したいと思われたのか、教えていただけますか?
起業家には「これをすべきだ」という確固たるものはありません。普通のビジネスですと、本屋へ行けばいろんな教科書があり、大体どういうことをやればいいか分かりますが、起業に関してはありません。
もちろん2011年の『リーン・スタートアップ』、2012年の『Running Lean』など、世の中には優れた本がありますが「一個一個の具体的なアクションができない」という課題がありました。つまり、すごく抽象的なのです。
僕自身も起業していて、成功したくて5年前から様々な事業に取り組み、情報もいろいろ集めましたがうまくいきませんでした。その情報が本当に今の自分のステージにおいて、正しいかどうかが分からなかったのです。つまり『Startup Science』は、まさに5年前の自分や、将来起業するであろう人のために書いています。
田所氏のキャリア
-今までのキャリアについて、お伺いしてもよろしいでしょうか?
日本の大学を出てから、アメリカの大学に編入し、帰国後は外資系のコンサル企業で働きました。両親ともに起業家だったので、小さいときからサラリーマンになるという感覚がなく、1社目、2社目をすぐに立ち上げました。それはスタートアップというより、既に出来上がったモデルの上でのビジネスでした。
震災をきっかけに、「何かやってみたい」という想いが強くなり、2011年夏、シリコンバレーで起業しようと思いました。はじめは右も左も全く分からない状態でした。1年半ほど向こうで頑張って、資金調達するために50社ほどVCも回りましたが、できませんでした。そんな中、共同創業者が途中でいなくなるなど、問題がいくつか起こったので一旦やめました。
日本に帰ってきて就職しようかと思いましたが、やはり自分はスタートアップが好きで、ゼロから始めたいと思い、教育系のスタートアップを始めました。3年ほどやって、好調になってきたときに、シリコンバレーのフェノックス・ベンチャーキャピタルから、「日本のベンチャーパートナーをやらないか」と誘われました。
スタートアップというのは、ファウンダーの条件でもありますが、100パーセントでは駄目で120パーセント必要です。兼業などはもちろん駄目です。はじめはフェノックスのキャピタリストと、スタートアップのファウンダー両軸でやり出したものの、なかなか厳しいと思い、自分の事業を譲渡しました。
起業経験のあるキャピタリストという人は日本にはなかなかいないので、いろいろな人がアドバイスを求めてきました。アドバイスをしていて、「これは使えるな」と思ったものを、徐々にコンテンツとしてストックしていきました。
『Startup Science』を2015年に出したときは600ページでしたが、2016年には800ページになり、それを出したら反響がかなりありました。ここまで反響があるのであれば、やり切ろうと思いました。そこから2カ月間、1日3時間ほど書いて、1200ページを今年の1月に出しました。それがまたすごい反響で、1週間で5000シェアされました。
そこから、さらに使命感が生まれ「ここまでやった人間はおそらくいないし、ここから先は誰も到達していない未知のところだろう。僕はもしかしたら、これを書くために、ここ10年のキャリアを積んできたのではないか」と思いました。そこから、さらにコンテンツを磨き込んで、1750ページのものを出しました。
僕は将来の自分のため、3年前に4社目をやった自分のために書いてます。自分自身の痛みをすごく分かっているので、起業家の気持ちがよく分かるんです。スタートアップをやると、選択肢は100個ぐらいあります。でも、これがあれば3つか、4つに絞ることができると思っています。それだけでも十分価値があると思っています。
3つか4つで、ある程度前に進めそうなことを細かく書いてるので、僕自身もコンテンツを作り上げながら、将来の自分の事業に生かしたいと思っています。今後もさらにコンテンツを磨き上げていきます。
まとめ
シリコンバレーで起業し、日本に戻ってまた起業。その中で培ったノウハウ、周囲にアドバイスしたものをストック化して公表する中で、使命感を感じ、将来の自分のため、今後起業する人のためのコンテンツを作り続けていることがインタビューからわかりました。
では、『Startup Science』の本編では、どういうことが書いているのでしょうか?