国税庁の調べによると、平成26年度時点で日本にはおよそ260万社の法人があるとされていて、そのうち株式会社が246万社、日本の法人のおよそ95%が株式会社という組織形態で活動していることになります。

株式会社において、会社法では取締役会や委員会、監査役、監査役会、会計監査人、会計参与などの機関設計が求められていて、それぞれの企業の実態に応じた機関設計を行わないといけません

今回はその中でも、取締役会という機関に存在する“取締役”について解説したいと思います。

取締役とは?

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出典:www.gratisography.com

"取締役"とは一体何なのでしょうか?

取締役とは、株主からの委任を受け、会社の業務執行を実際に行う役職です。当然委任を受ける立場上、株主から厳しく評価され、重い責任を負うことになります。

株式会社は、株主と呼ばれる出資者がお金を出し合って出資することで設立される組織です。経営について知識を有していなかったとしても、出資を行うことで会社の所有者になれるのは、株式会社の特徴の1つです。もちろん、出資者である株主と実際に経営を行う人間が同じであるオーナー企業もありますが、全ての株主が経営を行えるほどの知識を有しているとは限らないのが実情です。

このような状況の中、「じゃあ経営のことは経営のプロに任せようよ」という考えに基づいて考えられたのが“取締役”です。

取締役は出資者である株主から選ばれた人間がその職責を担い、会社経営を行っていくこととなります。

このように、株式会社の運営は所有者である株主と経営者が分離されているので、この状況を「所有と経営の分離」と言います。

取締役の根拠法及びその選・解任の方法とは?

①取締役の根拠法は?

根拠法ですが、取締役の設置は任意に設置を選べるわけではなく、会社法38条1項及び第326条1項によって「株式会社に設置しなければならない機関」として定められています。

取締役については会社法で細かく規定されていることから、以下、会社法をベースに解説します。

 

②取締役の選任方法とは?

取締役の選任については、株式会社設立時と設立後で以下のように規定されています。

・株式会社設立時…発起人(会社設立後は株主)の議決権の過半数をもって決定する。(会社法40条1項)
・株式会社設立後…議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の過半数をもって行う(以下「普通決議」という)。(会社法329条1項、第309条1項)

ちなみに議決権とは、決議に参加し票を入れることが出来る権利のことであり、株主は株式1株につき1個の議決権を有するとされています。(会社法40条2項)

「会社設立時と設立後は何が違うの?」と思われた方もいるかもしれません。

会社の出資者である株主が選ぶ方法自体は同じですが、設立時は発起人(株主)全員が決議に参加することが必要となります。しかし、設立後の決議への参加は、出席した株主の議決権の総数が全議決権の過半数であればよいので、すべての株主の出席は要求されません。

 

③取締役の解任方法とは?

取締役の解任については、会社法339条1項で、「いつでも、株主総会の決議によって解任することができる」とされています。この時の決議は原則、普通決議です。(会社法309条1項)

「解任されるまでずっと同じ取締役なの?」と言われるとそうではありません。

取締役の任期については、会社法332条1項で「選任後二年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとする」と定められています。難しく書いてありますが、大体2年と覚えておいてもらえるといいと思います。
ただし、実務上は同じ取締役が再任され続け、ずっと同じ取締役が会社経営に携わるケースがほとんどです。

株式投資を行っている方は知っているかもしれませんが、日本の場合は決算日の関係から株主総会は大体6月頃に行われ、その中で取締役等の選任、解任等の決議が行われているケースが多いです。

 

取締役の義務と責任

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出典:picjumbo.com

 

忠実義務(会社法355条)

会社法は「取締役は、法令及び定款並びに株主総会の決議を遵守し、株式会社のため忠実にその職務を行わなければならない」と規定していて、取締役に忠実義務を課しています。

取締役は会社を代表してその職務を執行することから、会社と取締役の利益が衝突する場面で、取締役が自己の利益を図らないようにしようということを義務付けています。

例えば、取締役Aが自己の保有する不動産を、取締役という立場を利用して必要もないのに会社に対して賃貸するような取引(利益相反取引)です。会社によって必要がない取引は、会社にとっての不利益以外の何物でもありません。

忠実義務違反になりかねないものとして、特に①競業取引(会社法356条1項1号)、②利益相反取引(会社法356条1項2号3号)、③報酬等の決定(会社法361条)について特別の規定があります。

競業取引
競業取引とは、取締役が別の会社を代表して会社の事業と競合する事業を行う場合などのことを指します。こういった取引は、会社の利益を害する危険が大きいとして、会社法で株主総会において、重要な事実を開示し、その承認を受けなければならないと規定しています。

利益相反取引
利益相反取引とは、取締役が自己または第三者のために会社と取引を行うことを言います。会社と取締役が取引をすることは、会社と取締役の利益衝突の最も単純なケースです。このような場合も、会社法は株主総会において、重要な事実を開示し、その承認を受けなければならないと規定していて、取引に制限を課しています。

報酬等の決定
これについては単純です。取締役が自らの報酬を自ら決められるようなことが出来れば、不当に高額な報酬を支給することにも繋がりかねません。
そのため、会社法は報酬等の決定について、定款もしくは株主総会の決議によることを求めています。

ここで注意してほしいのは、利益衝突を規律するルールが、上に挙げた規定だけではないということです。これ以外にも利益衝突の場面で、取締役が自己の利益を図ることは、忠実義務に違反することになります。

 

責任

①取締役の会社に対する責任
会社法は、取締役等の役員が上記の忠実義務に違反する行為や法令違反になる行為を行うことによって会社に損害が生じた場合や、会社から金銭が流出した場合には、取締役等がその賠償等をする責任を負うと定めています。そのような責任のうち基本的・原則的になるものが、任務懈怠<けたい>責任になります。(会社法423条)

任務懈怠責任が認められるためには、任務懈怠のほかに、会社に損害があること、任務懈怠と損害の間に因果関係があることが必要であり、これらについては役員等の責任を追及する側が証明責任を負います。

これに加えて、任務懈怠が取締役等の役員等の責めに帰すべき事由(帰責事由)になることも任務懈怠責任が認められるためには必要で、帰責事由については責任を追及される側が証明責任を負います。

②取締役の第三者に対する責任
会社法は、取締役等の役員が職務を行うについて悪意(ある事情を知っていること)または重過失(一般的に要求される注意を著しく欠いていること)があったときは、それによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負います。(会社法429条1項)

また、一定の書類(計算書類等)の重要事項について虚偽の記載をしたり、虚偽の登記・広告をした場合に、それによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負います。(会社法429条2項)

少し古い話になりますが、過去2,000億円を超える含み損を「飛ばし」と呼ばれる違法行為によって隠ぺいした山一証券の話は有名です。その時の経営陣には財産の全てを失った方も少なくないと聞きます。

取締役という肩書はサラリーマンならば誰でも憧れるものかも知れませんが、それには多大な責任も伴うことを肝に銘じておいてください。

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