3年で日本国土に匹敵する森林が消滅している
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人間が生活を営む上で欠かせない存在の1つが森林です。世界の人口が増え、土地開発が進み森林伐採が問題になってから、かなりの時間が経ちます。
もともと森林は年月と共に成長する資源です。森林は伐採しても再生が可能な資源で、長年に渡り人間の生活を支えてきました。先進国では森林伐採が問題になり、植林事業などを通じて森林資源管理が行われるようになってきました。
しかし世界規模で見ると、毎年1,300ヘクタールもの森林が世界から消えています。1,300ヘクタールは日本の国土の1/3に相当することから、3年毎に日本の国土に匹敵する森林が地球上から消滅していることになります。
我々人間にとって一番身近に感じる森林資源は、紙の原料と言えるでしょう。日本は年間の紙消費量では、アメリカ、中国に次いで第3位の紙消費国です。1人当たりの紙消費量も年間220KGにもなり、世界平均の57KGの約4倍にも達しています。
その一方で、紙の原材料である森林資源のほとんどを輸入に頼っているのが日本の現状です。森林資源の過不足が危ぶまれる中、木材を使わず紙の代替品を生産する新素材を開発した日本発のスタートアップがあります。新素材 “LIMEX(ライメックス)”を開発した株式会社TBM(以下TBM)をご紹介したいと思います。
自給率100%の石灰石から紙を作る
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紙を生産する場合の主原料は木材ですが、通常紙1トンを製造する場合、樹木約20本、水を約100トン消費すると言われています。しかしLIMEXは木材や水は使用する必要がありません。石灰石0.8トンとポリエチレン0.2トンを使用して、1トンのLIMIXを製造することが可能です。
紙の主原材料である木材は輸入に依存している日本ですが、石灰石は日本には珍しく自給率100%の資源です。比較的安価で安定供給が可能な資源で製造できるのが、LIMIXの一番の強みです。また主要成分が無機質のため、リサイクルにも向いている点も現在の環境問題を考えると、時代にマッチしたものとなります。
LIMEXのもう一つの特徴は、原材料の配合比率や加工方法を変更することでプラスティックの代替品を製造することも可能な点です。これにより使用用途が広がり、名刺のような紙由来の製品から、食品包装容器や粘着ラベルなど石油由来の製品まで対応可能であるとTBM社は胸を張ります。また、使用用途はデジタル印刷品、外壁、絶縁体、半導体基板、人口皮革などにも拡大させることを視野に入れているようです。
では、このLIMEXを誰がどのように誕生させたのでしょうか?
日本の技術を信じた創業者
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LIMEXを生みの親である山崎敦義TBM代表取締役は中学を卒業した後、若干20歳で中古車販売を起業します。その後、30代になり100年後も継承され、人類の幸せに貢献出来る事業を興したいと考えます。また夢は大きく、グローバルで戦って1兆円規模の事業を目指します。
この理念のもと起業されたのがTBMです。山崎氏がまず手掛けたのは、台湾製のストーンペーパーを日本へ輸入して、その素材を使い名刺やノベルティーを販売しました。石灰石を原料とするストーンペーパーは木材を使わないことから環境に配慮した製品ですが、品質のばらつきやコスト競争力に問題がありました。
台湾の取引先に限界を感じたTBMは、日本の技術を使い問題点を打破しようと考えます。大手製紙メーカー出身者などの技術を使い、誕生したのがLIMEXです。LIMEXはストーンペーパーの問題点を改良することにより、より品質の高い製品を作り出すことに成功します。
LIMEXの開発は世間の注目を集めます。2013年に経済産業省が実施した、イノベーション拠点立地事業の先端技術実証・評価設備整備費等補助金に採択されます。自供率100%の石灰石を有効活用する点や技術を海外輸出出来る点が評価され、大手企業の新規事業が採択されるケースが目立つ中、スタートアップとして異例の抜擢となりました。
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LIMEXを製品化するには工場建設が必要となります。スタートアップに取って工場建設の資金調達は大きなハードルとなりますが、TBMは補助金を使って2015年に宮城県白石市にパイロットプラントを建設します。さらに今後、同じく経済産業省の津波・原子力災害被災地域雇用創出起業立地補助金を得て、70億円規模の量産工場を宮城県多賀城市に建設を予定しています。
TBMは今後、海外へ技術と工場を輸出していくことも視野に入れており、世界中の森林資源問題に貢献することになるでしょう。今後のTBMの発展に注目が集まります。