アジア諸国が世界の海を危機にさらしている?
2011年の東日本大震災が発生した後、日本の沿岸部から太平洋に流出したがれきなどの漂流物が、数か月後にはアメリカ西海岸に流れ着いた報道を記憶している方も多いのではないでしょうか?海に流れ込んだ漂流物は、その国の沿岸に留まることなく大海を彷徨います。
現在、新興国の経済発展に伴い、海のごみが大きな問題になっています。太平洋の北西部には海流で流されてきた漂流物が集まる“ゴミベルト”という地帯が存在し、一説には1970年代と比較して現在100倍のゴミが“ゴミベルト地帯”に集まっていると言われています。
その中でもプラスチックゴミは海洋生物に大きく影響を与えています。科学雑誌“Science”の発表では、世界の沿岸諸国から流出したプラスチックゴミは2010年には800万トンにも達し、10年後にはその量が10倍にも増加すると警告を鳴らしています。
さらにゴミの流出元を調べた同誌は、トップ20カ国のうちアジア諸国が12カ国を占め、一位は中国であると結論付けています。その他の国もアフリカ諸国やブラジルなどがトップ20位に入っており、新興国の海洋ゴミに対する意識の低さが見られます。
プラスチックゴミは魚などが飲みこんでしまったり、魚がビニール袋に絡まってしまったりと、影響が分かりやすいものです。そのプラスチックゴミを画期的な方法で除去することを考えた若者がいます。今回はBoyan Slat氏をご紹介いたします。
ギリシャの海で泳いでいた時に閃いたアイデア
出典:www.theoceancleanup.com
オランダ人学生のBoyan Slat氏はギリシャで海水浴を楽しいでいた時、魚よりプラスチックゴミの数の方が多いことに不快感を覚えます。Boyan Slat氏はプラスチックゴミを効率的に回収出来る仕組みはないかと考えます。
Boyan Slat氏が目を付けたのが、プラスチックの基本的な性質です。プラスチックは軽く、水の中に入れても基本的には沈まない構造になっています。もう少し調べると、海に漂流しているプラスチックゴミは、海面から水深3メートルまでに集中していることが分かります。
Boyan Slat氏は、フェンスを海面でV字型に浮かべ、風や海流に乗って移動するプラスチック廃棄物をその内側で集めて回収するシステム「The Ocean Cleanup Array」を考え出します。フェンスは海面から浅い場所までしかなく、魚はフェンスの下を潜ってフェンスの外へ出られる仕組みになっており、比較的水深の浅い場所に集まるプラスチックゴミのみを有効的集めることが可能です。
NGOを設立し、クラウドファンディングで資金調達
出典:www.theoceancleanup.com
Boyan Slat氏はこのアイデアを、“Marine Litter Extraction(海のちょっとした掃除)”と名付け、動画配信を使って世界に向けて発信します。このアイデアは多くの人々から支持を得ます。そしてデルフト工科大学から2012年にBest Technical Design award(最優秀技術デザイン賞)を受賞しました。
2013年には“The Ocean Cleanup”というNGO団体を設立し、2013年にはクラウドファンディングを通じて、US$9万(約1千万円)を集めます。さらにボランティアや科学者たちが、Boyan Slat氏に考え方に共感し協力を申し出ます。
Boyan Slat氏がアイデアを発表した直後は、実現は難しいのではないかと懐疑的な見方もありましたが、協力者達のサポートを得て2014年には事前調査レポートを発表しています。このレポートによると、「太平洋循環に100キロメートルのフェンスを10年間設置することで、42%にあたる7000キロ分のプラスチックゴミを除去できる」とのことです。
夢を実現させるために選んだのは日本
そして遂に2016年には、実用化に向けて大きな一歩を踏み出します。Boyan Slat氏が「The Ocean Cleanup Array」の実用化に向けて選んだのは、日本の対馬でした。対馬沖に全長2KMのフェンスを設置して、ゴミを回収する実験を行う計画を発表します。
Boyan Slat氏の最終目的は、太平洋の北西部にある“ゴミベルト”に「The Ocean Cleanup Array」を設置することです。そして700万トンのプラスチックゴミを回収することを目指しています。2020年には「The Ocean Cleanup Array」実用化を目指すBoyan Slat氏の情熱が、実を結ぶ日も近いと思われます。期待して見守りましょう。