人は大人になっても成長するのでしょうか。
成長していると感じる人もそうでない人もいると思います。
この問いに”人間の知性や能力が一生をかけて成長を遂げていく”ことを前提に議論を展開しているのが成人発達理論です。
Contents
成人発達理論とは
成人発達理論の概要
成人発達理論とは、「知識やスキルを発動させる根幹部分の知性や意識そのものが、一生をかけて成長・発達を遂げる」という考え方のもと、人の成長・発達プロセスやそのメカニズムを解明する学問領域のことです。
成人発達理論を学習すると、自分の現状を理解することができ、次のステップへ進みやすくなります。
成人発達理論を世界的にリードしているのがロバートキーガンです。
今回はキーガンの理論にそって、成人発達理論について解説します。
水平的成長と垂直的成長
そもそも「成長」と一口に言っても、どのような状態になることを「成長」と呼ぶのでしょうか?
成人発達理論では、「成長」を「水平的成長」と「垂直的成長」の2種類で分けています。
水平的成長とは知識・スキルの成長をさします。具体的には、読書をして自分にない知識を身に着ける、資格を取得するなどです。
自身の知識やスキルの量を増やす、質を向上させることで水平的成長をしています。
垂直的成長とは知識・意識の成長をさします。
皆さんの周りに仕事に対するスキルや知識は豊富なのに、部下への指導の仕方に問題がある上司はいませんか?
同じミスを注意するのでも、言葉のチョイスや声のトーンで受け取り手の印象が変わりますよね。
例えば、仕事はできて当たり前だと考えていた人が、部下に感謝の言葉を伝えるようになったなどは垂直的成長を遂げたと言えます。
キーガンの元で学び、現在オランダのフローゲン大学で活動している知性発達学者の加藤洋平氏はどちらの成長も重要であるにも関わらず、日本では水平的成長にばかり目を向けられている傾向にあると主張しています。
加藤洋平氏のインタビューによると真の成長とは知識やスキルばかりを増やすのではなく、意識も一緒に成長させていくことなのです。
発達段階
発達には段階があります。
成人発達理論における発達段階は、キーガンによると1 具体的思考2 自己中心3 他者依存4 自己主導5 自己変容の5つです。
1具体的思考段階は未成人の発達段階を指します。
2自己中心段階は関心ごとや欲求のベクトルが全て自分に向いていて、他者の感情や思考を理解することは難しい段階です。自己の欲求を満たすことが最優先され、時には他者を道具のように扱うことが特徴です。
3他者依存段階は組織や集団に属し、意思決定は自らの判断ではなく組織や上司の方針に従う段階です。既存の慣習への適応が可能な一方で、判断が他者基準になっている側面もあります。「ルールだから、上司から指示されているから」という発言が多くみられる傾向にあります。
4自己主導段階は自分なりの判断基準や価値観が形成される段階です。自らの行動基準によって主体的に行動します。自己成長に強い関心があったり、自分の意見を明確に主張したりすることが特徴です。
5自己変容段階は他者の多様な価値観や判断基準を受け入れながら、的確な意思決定ができる段階です。自己の成長よりも他者の成長へ意識が向いており、部下の育成などに適した時期であるといえます。相互発達の意識が強く、他者とかかわることを重要視します。
現在、成人発達理論における発達段階4に達する人は成人人口の20%未満、発達段階5に関しては1%未満です。
ではどのようなことに気を付ければ発達段階4・5に到達できるのでしょうか。
成人発達理論実践
発達段階3他者依存から4自己主導への移行
発達段階1・2は幼少期に突破することがほとんどで、多くの社会人は発達段階3に属するためここでは飛ばします。
発達段階3他者依存から4自己主導への移行についてです。
発達段階3では指示待ちの人が多いことが特徴です。これは、自律ができていないとも言えます。組織階層の上の者が、階層の下の者を制圧する雰囲気から上の人へ意見しづらくなっている、この状況が発達段階3である人を作り出しているのです。
発達段階3の人が多い組織では、既存のものを批判する意見も出ず、イノベーションの創出が難しくなります。
この段階を突破するには自分の考えを言語化する習慣づけが効果的だと加藤氏は述べます。
言語化することで、自身の内側の声を発見しやすくなるからです。自分の意志を持ち、それを表明し公正な判断ができるようになることが突破のカギだと言えます。
発達段階4自己主導から5自己変容への移行
発達段階5の定義にふくまれる”他者”は、自分以外のすべての人を指し、性別・年齢・国籍などは関係がありません。
しかし加藤洋平氏は、日本人は上下関係の意識が邪魔をして上司が若者から学ぶという行為ができないのだと述べています。これが、発達段階が4から5へ移行することができない大きな要因となっています。
たしかに、経験や肩書がある人ほど、わからないことに対する恥じらいが強くなる傾向にあるのかもしれません。
ただ、変化が目まぐるしい時代に生まれた若者であるからこそ適応できる環境や技術、価値観があり、これを学ぶ姿勢が発達段階を突破する一つのカギです。
また、自己開示も大人の発達において重要であると言われています。
発達段階4で構築された自身の価値体系を自己開示し、他者からフィードバックをもらうことが発達段階5に踏み出すための第一歩となるからです。
以上学ぶ姿勢と自己開示の2点は、発達段階4から5へ進むためのポイントとなります。
成人発達理論における発達段階と突破のポイントを理解することで、自身がどのようなことを心がければ成長に繋がるのかを自覚することができます。
成人発達理論を深める
より成人発達理論の理解を深めたい方にお勧めの書籍と動画を紹介します。
・加藤洋平『成人発達理論による能力の成長』 日本能率協会マネジメントセンター,2017年
キーガンは人間の器の成長を中心に議論を展開しています。しかし、現実には人間性が優れているにも関わらず、仕事のスキルの低い人が存在します。
この本では上記の矛盾をダイナミックスキル理論と呼ばれる、スキルの成長にフォーカスした理論に基づいて解説しています。
上記の書籍の著者である加藤氏による成人発達理論解説動画です。より深い知識が得られることはもちろん、対談形式で行われているため、なかなか文章では理解ができなかったという人にもおすすめです。
あわせて学びたい
成人発達理論の理解を深めるために、成人発達理論が影響を受けた理論や与えた企業形態を学ぶこともお勧めします。
インテグラル理論
インテグラル理論とは、ケン・ウィルバーが提唱する理論や思想体系のことです。世界3大メタ理論の一つとされています。成人発達理論はインテグラル理論に大きく影響を与えました。より、物事を多面的にとらえるメタ理論として非常によい理論ですのでご興味がある方はぜひこちらも合わせてご覧ください。
発達指向型組織
発達指向型組織とは、Deliberately Developmental Organization の日本語訳で、ロバート・キーガン、リサラスコウ・レイヒーが提唱する成人発達理論に根差した組織文化をもつ企業形態です。具体的には、個人の成長に注目することが企業の成長に結びつくという考えのもと存在する企業体系です。
成人発達理論の中でも展開されている”大人の発達段階”に加えて、キーガンは組織の発達に必要な要素は、エッジ・ホーム・グルーヴの3つであると言及しています。この3つの軸が相互に作用しあうことで組織の発達は生まれていくという考え方です。
エッジとは、「発達することへの強い欲求」のことです。チャレンジとも言い換えられます。発達指向型組織では弱さは財産、失敗はチャンスと捉えます。そのため、自身の限界を知ることを可能とし、限界に向き合うこと=チャレンジすることに価値を見出せるよう促していく必要があります。
ホームとは、「発達を後押しするコミュニティ」のことです。サポートとも言い換えられます。弱さをポジティブにとらえる発達指向型組織では、この弱さを共有する必要があります。しかし、ここに付け込まれたり、悪用されてしまったりしては共有することはできません。これを解消するためにホームが必要になります。役職や年齢に関係なくお互いをサポートし、尊重しあうことのできるホームを目指すことで発達を後押しするコミュニティが形成されるのです。
グルーヴとは、「チャレンジとサポートが日常的に行われるよう促す慣行」のことです。ホームやエッジが個人だけではなく、組織文化として浸透するために存在するのが、グルーヴなのです。
成人発達理論をベースに、エッジ・ホーム・グルーヴの3つの軸が相互に作用しあうことで組織が成長し、好業績をあげている企業こそが発達指向型組織であると言えます。
成人発達理論に根差した企業体系であるため、合わせて学習し組織運営に反映させるのもよいかもしれません。
発達・成長のメカニズムを理解して自分や他者に応用しよう
成人発達理論からもわかるように、知識を蓄えることに加え、器の大きさや学ぶことへの姿勢などの要素が満たされなければ、成長とはいえません。まずは成長・発達のメカニズムを理解し、現状を把握しましょう。そして、自分自身に何が足りないのかを考えましょう。次の段階へ突破するポイントが導き出せるはずです。
成人発達理論を通し、真の成長を遂げましょう!