今回のインタビューは、株式会社農業総合研究所 代表取締役社長 及川智正氏に、これまでの人生を折れ線グラフで振り返っていただきました。

年収40万円からの上場

渋谷:人生の折れ線グラフというのを書いていただきました。ご紹介いただいてもよろしいですか。
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及川:こんなグラフになっています。すごく難しいなと思ったのが、何をもってゼロ、何をもってBADなのか。今まで生きた中でマイナスゼロ以下はなかったのではと思っています。大変なことたくさんありましたが、一番下がゼロではないのかなと思っています。
大学のときはずっと山を登っていまして、今でも登っています。勉強をほとんどしないでお酒ばかり飲んでいて、キリンビールから表彰されるのではないかというぐらいビールを飲んでいました。授業にまったく出なくて山に登って、とても楽しい学生時代を過ごしました。一番しんどかったのは起業してからです。
 
渋谷:起業は何歳のときですか。
 
及川:会社を作ったのは32歳です、この点です。
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ふたつ点がありますが、まずこの28歳のときにサラリーマンをやめて自分で農業をやってみようと。和歌山で農業を始めたのが28のとき。
 
渋谷:それがゼロなんですね。
 
及川:いろいろな仕事の楽しさがあると思います。逆に今まで仕事をやってきて何が楽しかったかというと、「土日なのに仕事やってくれて、及川さん、ありがとう。助かったよ、またよろしくね」という、ありがとうの声が聞こえてきたから仕事のモチベーションがあがって、よし頑張ろうと思っていました。私がやっていた農業というのは、100パーセント農協さん出荷だったのです。キュウリ作って農協に持っていって360円、これで終わりです。
伝票をいただくのですが、伝票には「ありがとう、おいしかったよ」と書いてあるわけではなく「まっすぐなキュウリが100本、曲がったキュウリが300本、合計400本」というのがずっと続きます。モチベーションを高めることが非常に難しかったです。農業をされる方、いろんな感想を持たれていると思いますが、私が感じた農業はつまらなかった。だからゼロになってしまったのかなと。
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つまらなかったのですが、元々外から来た人間なので、2年目から独立しました。何をやったかというと、自分でハウスを借りて、自分でキュウリを作ってみました。そしたら面白い農業ができるのではないかと思ったのですが、そんな農業は甘くないんですね。1年しか作ったことないですし、作ったものをどこに持って行けばいいかわからなかった。たぶんスーパーで売ってるから、スーパーに持っていけば売れるんじゃないかな、と思ってスーパーに行ってドアノック営業させていただいて、2年目終わったときには、たぶん年収が40万円。年収ですよ。年収40万円で、非常に仕事のモチベーションも下がってしまいました。
サラリーマンやってももっともらえるわけじゃないですか。なんでこの道に入ったのか、なんで俺は農業やって、なんで40万しか稼げないんだ。3年やったら東京に戻ってまたサラリーマンやろうかと思いましたが、ありがたいことに3年目に入ったら、自動的に注文が入るようになってきまして、「及川さん、去年作ったキュウリおいしかったから、また持ってきてよ」と。
 
渋谷:それは農協さんじゃなくて。
 
及川: 2年目に営業してたスーパーさんからです。それだけじゃなくて「友達でトマトとかナスとか作ってないの?」という声もいただきました。私はキュウリ農家だったのですが、友達のトマトもナスも売れたりしました。もっというと、「漬物にして持ってきてよ」とか「サラダにして持ってきてよ」「僕、漬物もサラダもできません」「じゃ、サラダ工場紹介するからサラダにして持ってきてやったり、漬物工場紹介するから漬物にして持ってきて」ということで、2年目はキュウリしか売れなかったのですが、3年目になると自分のキュウリと、友達の野菜と果物と、あと加工した自分のキュウリが売れました。
ということで、地元の農家さんの手取りより1.5倍ぐらいボンと増えました。「これだ!」と。よくいうマーケティングというやつですね。スーパーさんが要望するものをこちらから提供するということです。
私がやりたかったのは、キュウリ農家で儲けることではなくて、和歌山から新しい情報発信したい。この、やってることを地元の農家さんに話したら、もしかしたら和歌山から新しい情報発信ができるのではないかということで、和歌山の農家さんにお話をしたら、みんな感動してくれたのですね。「東京から和歌山に来て、僕たちができないことやってる。えらいえらい」と言われたんですが、最後に言われたのが今でも心に残ってるんですが、「でも、及川くん。僕はキュウリを作ってやってるんだ。わざわざ頭を下げてまでキュウリを売る必要はないと思っている」と言われてしまったのですね。厳しいなと思いました。
そのときは、まったく意味がわからなかったのですけど、今9年経ってわかってきました。田舎には隣近所の関係があったり、農協さんとの古い関係があったり、若い農家さんにはお父さんがいるのです。新しいことをやりたくてもなかなかできない環境だということが「作ってやってるんだ」という言葉になったのではないかと思っています。
「なかなか一農家から日本の農業を変えるのは難しいな」ということで、2番目の点です。
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八百屋をやってみました。大阪の千里中央で、まだ今もあります。今度、自分で八百屋を作って、農家さんから仕入れて販売するということをやりましたが、当たり前かもしれないですけど、作っている人は1円でも高く売りたいのです。ですが、今度は売る側になったら、農家を叩くんですよ。自分が農家をやっていたのにですよ。
キュウリ3本100円じゃなくて、80円、50円、30円で持ってこいみたいに叩いて叩いて「あれっ」と思いました。両方やったことがあるのに、立場が変わると考え方が変わってしまう。この水と油の関係は流通をコーディネートしないとよくないんじゃないか、ということで、ここですね。また一番下、和歌山に戻ってきて現金50万円で起業したのがスタートです。
起業される方にはいろいろなパターンがあっていいと思います。32歳まで起業したいと思ったことは一度もないです。32歳のときも、もし自分のやりたい会社があるのであれば、どこかに入ろうと思っていたのですが、なかったのです。なかったから自分でやるしかないな、ということで現金50万円で作ってしまったのです。
 
渋谷:今はGOOD。
 
及川:やっとスタートラインに立てたのかなと思ってます。ちょうど今年の6月に上場できましたが、上場したかった一番の気持ちが、まだ農業ベンチャーで上場したところがなかったのです。私は、大学の先生もしていますが、みんな「ゲーム会社に行きたい」「東京の会社に入りたい」と。「待てや!」と。「和歌山でも農業でも、頑張れば50万円からでも上場できるんだ、こっちを向け!」というような農業ベンチャーがあってもいいのかな、情報発信したいな、ということで上場して、スタートラインに立てたのではないかと思っています。

【IPO経営者対談】農業総合研究所についての動画はこちら

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