取締役の構成はバランスが大事

ー事業承継において大切なこととは?

山本:事業承継になると必ず課題になってくる、株式に関する承継、マネジメント(いつ代表になるのか)、ビジネスモデルをどう変えていくのか、この3つの観点を、どのように進めていくのか、色々と試行錯誤しながら進めていきました。

 

いわゆる、業績が一気にドンと落ちましたから、そうなると、業績の見込みが厳しい状況になります。当時株主は50人以上いたんですけど、ほぼ私に集約するべく、借入も行いながら株式を買い取らせていただくことをしました。今は私が約7割の株式を持っていて、10年かかりました。

 

2つ目は、事業承継。先代の社長が私の父になりますが、父と相談しながら進めました。このプロセスにおいては、やはり従来の役員の方々にはしっかりと与えられた仕事に集中していただき、新しい取組に関しては、私が代表になるタイミングで、新しい役員を社内、社外から迎え入れました。

 

私が大事だと思っていたのは「会社の取締役は誰がなるべきか」というところです。例えば日本の大手企業、中小企業でも場合によっては多いんじゃないかと思いますが、既存の事業の売上・利益を多く叩き出している、ある意味一番損益における影響力の強い方が取締役になられています。場合によっては常務取締役、専務取締役、社長の次のナンバー2のような存在で、大変大きな発言権・影響力を持ちながら、取締役会を運営されていることがよくあります。

 

これはもちろん大事な観点ですが、それだけだと難しくて。つまり、既存事業が未来永劫続いていくのであればいいんですが、やっぱりこれだけ昨今の技術革新の中、場合によっては既存の事業を破壊しかねない状況です。新規事業に取り組んでいく投資の意思決定や、余った人を新規事業に充てるのではなく、組織において最も重要な、もしくは最も優秀な人材を新規事業に振り分けていくという意思決定を取締役会でしようとすると、全く異なる、多様なバックグラウンドを持つ方々によって取締役が構成されていくのが、私は極めて大事だと思ったんですね。

 

今の取締役の構成も、そういったバランスを持たせようとしています。例えばベンチャーキャピタリスト出身の方、執行役員も含めると、研究開発出身の方やマーケティング専門の方、こういった方々を迎え入れました。取締役は経営全般のことについて意思決定するためにあるのであり、どこかの事業の存続発展だけに意思決定が隔たりがちにならないように配慮するような企業統治の取り方に改革を持っていきました。

 

会社経営もそうですが、事業フェーズでいっても、黎明期、成長期、成熟期、そして衰退期というのは必ずあります。これはやはり、1人の人間で全部やる、最後までやり切るというのはなかなか大変です。

 

当社は渡り鳥経営と呼んでいますが、鳥は何千キロにわたって遠くに飛ぼうとすると、一番前でずっと飛び続けると抵抗が強くて、バテちゃいますよね。そういった経験のある人が2番手3番手に立つことで、先頭に立つことの大変さ、また、周りを支えることによって、自分達の群れが飛んでいく方向性を軌道修正していく役割がいかに大事なのかわかります。

 

誰もが得意なことと不得意なことがあります。会社の状況や事業の状況に応じて、それぞれの役割を臨機応変に変えていくこと、会社が衰退したり弱くなったりするときがあっても、イノベーションというか、レノベートしていく。つまり、再構築ですね。これが革新をやり続けるためのポイントだと、私は思っています。

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社会実装できずに終わってしまうスタートアップが多すぎる

ー京都ものづくりバレー構想に関連する動きを教えてください

山本:私が代表になって数年も経たないうちに、京都試作ネットという一般社団法人と出会いました。京都にある、技術のある中小企業の経営者が集まって、「京都を試作の一大集積地にする」というスローガンのもと集まった組織です。

 

入会して活動していく中で、1つ見えてきました。私も中国のシンセンやイスラエル、シリコンバレーを訪問して、新しいイノベーションが生まれるエコシステムと出会う機会がありました。今後の日本のものづくりを考えたときに、「日本のものづくりの生き残り方っていったい何だろう?」と随分考えさせられたんですね。

 

良いアイデアは大学の中、もしくはスタートアップの企業が持っているんだけど、これをきちんと製品にして、それを社会実装できずじまいで終わってしまう会社が、山ほどあるんです。

 

特に日本の品質が求められるような、例えば産業機器や医療機器だとか、決して簡単には失敗が許されないような領域での品質ですね。これは日本が求められる1つの強みになってきます。

 

ものづくりのプロセスにおける大きな死の谷が量産にまつわる試作です。つまり、開発フェーズにおける試作は、機能的にはきちんと機能することがわかったり、展示会でお客様の反応を見るために、展示会用の試作品を作ることは、どこの国でもまあまあできるんですね。

 

それを実際に市場に入れるための価格に合わせ、市場のニーズに合わせた製品の形や色、形状を合わせようとすると、今までとは全く違うような設計が求められたり、材料選定も出てきます。ここの量産試作における死の谷を越えていくお手伝いをするのは、日本のものづくりの生き残り方の1つだと思います。

 

特に当社はずっと受託製造をやってきましたから、受託の製造から、要は川上の工程。つまり、開発に近づく工程が量産試作ですから、そこをちょっとお手伝いさせていただく。そこは当社の生き残りの1つなんじゃないかなと、そう思ったんです。

 

世の中に山ほどあるスタートアップが、たくさん生まれては死んでいる厳しい現実の中で、ものづくりのお手伝いをぜひしたい。つまり、起業家と出会っていく必要があると。そうなったときに、今京都大学で寄附講座をさせていただいています。京都大学には、東京大学とは違う雰囲気があり、「東大のやることはやらない」という独立旺盛心がある大学の風土があります。

 

これからのものづくりはハードウェアだけではなく、ソフトウェアを含めて作っていく必要があります。京都には、伝統産業や観光産業、もしくは漫画のようなコンテンツ事業もたくさんあります。これだけ小さい世界の中で色々と密集しているところは、そうわけではありません。

 

その中で「ものづくりバレーを作っていくためにどうすればいいのか?」という寄附講座を運営することで、お互いにコミュニケーションがないところから新しいコミュニケーションが始まり、事業機会が生まれてくるんじゃないかと。そこにやりたいと思う人材がいるのであれば、そこを上手くマッチングしながら、事業成功のお手伝いをしていこうと思っています。

 

当社の事業の中に、事業化支援サービスがありまして、そこは特にものづくりをお手伝いしています。そこの事業機会を見つける手段の1つとして、寄附講座に取り組ませていただいています。

 

私はこれからの時代、地方創生が大事なキーワードだと思っていて、東京だけではなく、福岡、名古屋、そして京都が地方創生の1つの事例としてぜひ育ってほしいと思っています。

 

「じゃあ、京都にはいったい何が足りないのか?」と。伝統産業があり、革新的な京セラを初めとする技術、新しい会社が生まれ、どんどん世界的な企業になることはあるものの、「じゃあ本当にこれから京都がますますそういったイノベーションが起こる場所にしようとすると、何が足りないのか?」をしっかり認識し、手を打っていくことが重要だと思うので、寄附講座に取り組みました。わかったのは、結局起業家が足りないということなんですけどね(笑)。

 

私自身も起業家として、もしくは事業承継者としてリノベーションしていく。古くなっていったものをリノベーション。元々あった形にかたちに整えるリフォームではなく、むしろ根本的なことから考え直して、革新的な建物を作っていくようにリノベーションしていきたい。

 

まあ、リノベーションという言葉は、好きな言葉でもあるんですけど、僕はあまりピンとこないところもありまして。新しく生まれ変わらせていく、既にある大事なものは大事にしながら、温故知新で新しいものを生み出していく。そういったレノベーションになっていくことをぜひやっていきたい。この寄附講座を通じて、事業機会がたくさん出てきたらいいな、と思っているところです。

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