今回のインタビューは、株式会社I.S.T、阪根勇会長に、「研究開発におけるテーマ選びの重要性」や「大企業のテーマ選び」についてお話を伺いました。
莫大な研究開発費を無駄にしないために
開発にはすごくお金がかかります。
ものができても、それを市場に出して、それを市場が使いこなして、それではじめて成功と言えるからです。
一回始めた開発は絶対にやめられません。
途中でやめると、それまで費やした莫大な開発費を捨てることになるので、何を開発するかというのが非常に重要です。
テーマの選定が会社の生命を左右するのです。
我々が色々な商品を扱っているので、「どうつながってるんですか」とよく聞かれますが、基本的には、私が材料開発です。
世の中の進歩というのは、材料が開発されてはじめて、もう一段上へあがります。
例えば、カーボン製品が出てきたことによって、今までと違う分野が拡大しました。
それはその材料を使いこなす人が出てくるからです。
この材料がどれだけ使われるという予想があまりできなくても、それを使いこなしていく人が出てくることで、マーケットはどんどん広がっていきます。
それによって世の中は一段上にあがっていきます。
ですから、半導体ができてテレビが変わってくる、電話が変わってくる、スマホに変わってくる。
そういう形で、何かの材料ができてくることによって変わってきます。
ニーズとシーズ
開発するときのテーマは、
「シーズからくるのか」「ニーズからくるのか」
とよく言われます。
一般的に開発した商品が、すぐに売り上げ、利益につながっていくのはニーズからのテーマです。
お客さんが欲しいと思っているテーマを開発して、それに成功すれば早く売り上げにつながります。
ところが材料開発というのは、必ずしもニーズからくるのではなくて、ニーズとシーズと半々です。
「これは多分要求があるだろうな」「今すぐなくても、将来は要求がくるだろうな」と考える。
これはどちらかというとシーズのほうからくる話です。
それに対して、何のテーマを選ぶかというのが大事になります。
その中で難しいのは、材料開発というのは、基本的に今までにない材料をつくるので、大変時間もかかるし、相当の労力も必要です。
さらに、すぐに商売になるかというと、すぐには売り上げにつながらない。
できたものがすぐ売れて、ポンと儲かる、という形を夢見ると、まったく駄目ということになるので、時間をかけて浸透させます。
今の大企業は目先を探さないと駄目というところにきていると思います。
あまりにも世の中になんでもかんでもありすぎる。
どうしても目先の売り上げをあげないといけない。
世界中がつながっているので、今では開発したものがどんどん真似されます。
昔は開発したものの寿命が長かったのが、今は開発したものが瞬間に世界中に行き渡ってしまうのです。
せっかく自分たちの考えたものが、製品ライフが短いため儲ける時間が短い。
そうなると、次を出さないと、次を出さないと、となってしまい、短期間にものを開発しないといけなくなります。
それもできるだけ儲かるもの、となってくると長期の開発ができなくなってくる。
ましてや大企業というのは、短い任期の間に、自分の功績をあげないといけない。
その間に開発しないといけない。しかしもうそんなものは世の中にありません。
本来は、大企業でももっと長期のテーマでしっかり考えていったら、力があるからいいものが出てくるけど、なかなかそこにつながってないということ。
その辺りのテーマの選定が、日本の大企業は本来とても力があるので、本当はもう少し長い目でそういうものを開発していけば、いろいろ変わってくると思います。