人類と有害生物の戦いの歴史
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最近、クマなどが人の住む地域へ侵入する事件がメディアで取り上げられることをよく目にしますが、これは自然破壊が進んでクマの生息地帯が人間の集落に近づいているのが一因だと言われています。
クマの出没はニュースなどになりやすいため我々の目に触れることがありますが、いわゆる害獣による農作物などを食い荒らす被害は目立ちませんが、深刻な問題となっています。
一方、海外では有害生物駆除はペストコントロールと呼ばれ、古くから組織的に行われていました。ペストはネズミについたノミが原因で起こった伝染病のため、ネズミ駆除が盛んに行われ、これをペストコントロールと呼んでいました。今日では有害生物駆除全般を総称してペストコントロールと呼びます。
このペストコントロール業界で注目を浴びているスタートアップが、NASDAQに上場を果たしました。SenesTech社をご紹介いたします。
動物愛護主義の科学者が考えたこと
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アリゾナ州フラッグスタッフに本社を構えるSenesTech社は、バイオテクノロジー会社です。SenesTech社は、2人の科学者によって2004年に設立されました。CEO兼会長Loretta Mayerと社長Cheryl Dyerが共同創業者で、2人はその後結婚します。
2人には共通した強い理念があります。動物に対しての深い愛があり、バイオテクノロジーを使い、動物を可能な限り苦しめないようにすることです。
その一方で、ペストコントロールは人類が生活を行う上で不可欠なものであり、動物といえども駆除する必要があることは事実です。ならばバイオテクノロジーで動物に可能な限り苦痛を与えないで、ペストコントロールが出来ないかとMayer CEOは考えます。
研究を重ねたMayer CEOは、害獣のメスを不妊にする餌を開発することを思いつきます。害獣の中でもネズミ類が与える被害は大きく、特に東南アジアでは米の生産量の10-50%をネズミなどの害獣に食べられていると聞いたMayer CEOは、ネズミ達を不妊にする餌を開発しようと決意します。
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アメリカ国内では、街中にネズミが野生化して生息しており、この駆除に関係者は頭を悩ませています。繁華街でも地下にはネズミが多数生息していて、伝染病などが懸念されます。例えばニューヨーク市の地下鉄では、ネズミがたくさんいて時には電車の運行に影響を与えることもあります。
ネズミは生殖力が強いため、駆除活動をしても根絶することは困難です。しかしSenesTech社が開発した餌は、それを食べたメスのネズミの閉経を促すため、子供が産めなくなります。
Mayer CEOは開発した餌は「フレンチフライのような味で、ネズミが好んで食べる」と説明し、閉経を促す以外には大きな健康上の影響は無いと言います。これならば、Mayer CEOの理念である動物に苦痛を与えることなく、ペストコントロールが可能になります。
大切な人の死で科学者となる
カルフォルニア州立大学で社会学の学位を得たMayer CEOは、ビジネスの世界に入ります。20年以上のキャリアを重ねて一定の成功を収めたMayer CEOでしたが、ある日ショッキングな事件が起きます。
母親のような存在と慕っていた人物が、心臓発作で急逝してしまいます。これに衝撃を受けたMayer CEOは、バイオテクノロジーの研究を通して社会に貢献しようと考えます。1995年に北アリゾナ州立大学のバイオテクノロジー学科に入り、1999年には博士課程を修了します。
研究者として幾つかの賞を受賞したMayer CEOは、2004年に同じ理念を持ったDyer 社長とSenesTech社を立ち上げたのでした。
ニューヨーク市地下鉄にテスト採用され、NASDAQ上場へ
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害獣に対する不妊餌が評価されたSenesTech社は、2015年には優秀なスモールビジネスを対象にした賞を受賞します。
2016年には不妊餌を実用化するため、SenesTech社は大きな一歩を踏み出します。ネズミ被害で悩むニューヨーク市地下鉄に、不妊餌を試験的に導入することに成功します。Mayer CEOは、「ニューヨーク市地下鉄で成功すれば、何処でも成功するはずだ」と胸を張ります。
この試験導入で注目を集めたSenesTech社は、ニューヨーク証券取引所NASDAQ市場に上場を果たします。IPO(株式公開)でUS$3175万(約36億円)の資金確保を計画するSenesTech社の今後に注目です。