今回のインタビューは、ロボット投信株式会社取締役会長、草鹿 泰士氏に「資産運用業界の課題」や「今後の成長戦略」についてお話を伺いました。
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業務を自動化するRPA(Robotic Process Automation)事業とは
-事業内容について教えてください
我々は資産運用(アセットマネジメント)の分野でのフィンテックです。いわゆる、業務の自動化、アセットマネジメントビジネスの業務自動化に関するRobotic Process Automation(RPA)事業を展開しています。
例えば、投資信託の販売会社(証券会社、銀行等)は、お客様からの投資信託の基準価額や株価などに関して様々な問い合わせがあります。今はその問い合わせに対して、オペレーターが応えているのですが、それを我々のRPAソリューションを使うことで、自動応答することが可能となります。
日本の運用業界に存在する3つの課題
-誰のどんな課題を解決しているのですか?
現在、日本の運用業界には3つの課題があると認識しています。
1つ目はコストです。例えば、投資信託の信託報酬等が高い。これには理由があって、この業界のオペレーションは非常に“労働集約的”な構造になっています。特にミドルオフィスとかバックオフィス、一部フロントオフィスもですが、そこのプロセスに人が多く介在していて、非効率が生まれています。このコスト構造にメスを入れ、この問題をテクノロジーの力で解決しようとするのがロボット投信です。
2つ目は透明性の問題。例えば信託報酬や基準価額について、それが何を意味するのか?、どうして変動したのか?などが見えにくく、少なくとも個人投資家にとってはわかりづらいです。このわかりづらいものをわかりやすくするツールを提供していこうと思っています。
3つ目はお客様とのコニュミケーションの仕方です。果たして現代のテクノロジーを活用して、お客様ときちんとコミュニケーションしているのか?例えば、個人の投資家への通知ですね。通常、郵便はがきで「何パーセント下落した」と通知を送るわけですが、でも実際に届くのは郵送した3日後になるので、情報の鮮度が落ちてしまいます。インターネットやSNSだけではなく、音声認識やAIスピーカーを使い、お客さんとのコニュミケーションを円滑に行っていきたい。我々は、これらの3つの課題を解決したいと思っています。
「MUFGデジタルアクセラレータ」へに参加した結果得られたもの
-どのように業界の課題を認識しましたか?
そもそも創業者の野口が前職ヨーロッパの運用会社にいまして、その日常業務のなかで非効率を感じ、この非効率はテクノロジーで改善できると思ったのが創業の原点です。
その課題設定が果たして正しいのか?—仮説検証する中でたくさんの試行錯誤がありました。ターニングポイントは三菱UFJフィナンシャル・グループが主催する「MUFGデジタルアクセラレータ」の第2期に選抜されたことです。
何が良かったのかというとプログラムの4か月間、我々のアイデアを実際にMUFGグループの証券会社や運用会社と議論させていただけたことです。「それは必要ない」「これをやってくれ」と、深く議論させていただきました。その後のビジネスパートナーとなる方々と議論のスパーリングを行ったことが、課題の質を高めることに繋がったと思います。
創業者との補完関係
-参画することに抵抗・葛藤はなかったですか?
葛藤はなかったですね。これまで私は、BNPパリバカーディフの在日代表やアーンストアンドヤング(EY)のパートナー兼COO など金融ビジネス中心に経営者の経験はありますが、正直、テクノロジーに特に詳しいわけではありません。しかし代表の野口はテクノロジーと運用業界に詳しく、私はマネジメント経験が豊富。「これは非常にいい補完性があるコンビになるんじゃないか」と思いました。実際に一緒に仕事をしてみて、非常に面白いです。
創業者が自分でコードをかけるのはとても重要です。これはなかなか凄いことで、「この辺がおかしい」と言えばすぐに反映させることができる。これまで業界のフロントに立っていたプレイヤーがビジネスを定義してきましたが、「エンジニアが既存の金融ビジネス、運用ビジネスを再定義したら、どういうオペレーションになるんだろう」とワクワクしました。
-優秀なエンジニアを集めるための工夫はありますか?
いい意味で驚きだったのですが、エンジニアの中ではいわゆる「コミュニティ」があって、そこでの評判や情報共有がすごく重視されます。「○○さんがエンジニアとしている会社だから、面白そう」とか「求められるレベルが高いんじゃないか」と判断され、そういうコミュニティの人の繋がりでどんどん応募者が集まりました。
業界の課題を解決したい、パッションを持った人に出会いたい
-今後の採用戦略について教えてください
直近の資金調達(増資)により、従前からの株主のインキュベイトファンドに加えて、大手金融機関グループからご出資いただき、強力な株主の布陣となりました。我々のビジネスは特段大きな設備投資が必要なビジネスモデルではないので、ご出資いただいた資金は、基本的には「人」、つまり優秀な人材の確保に使っていきたいと思っています。
現在も積極的に採用中ですが、エンジニアと営業を中心に採用していきたいです。若干名の管理部門も採用していきたいですね。向いている人は「運用業界に対する課題を解決することに共鳴してくれる人」そして「パッションを持った人」だと思います。
中長期的には「運用会社を作りたい」
-今後の事業戦略について教えてください
今注力しているのは投資信託を作り出す側、運用会社向けのソリューションを出していこうと考えています。運用会社はファンドの運用レポートというものを作っているのですが、現在は人がグラフや文書を作っているので、データを自動的に引っ張りだしてレポートを自動作成するツール(RPAサービス)を開発中です。
もう1つ考えているのは、業界課題の1つである「透明性」を解決するツールです。昨年、株ドットコム証券様のホームページにも出していただきましたが、投資信託の基準価格の変動要因(なぜ上がったのか、下がったのか)をわかりやすく示すツールも開発しています。
さらに中長期の話をすると、我々は実際に「運用会社を作りたい」と考えています。例えば海外の小さい運営会社(ブティック)がニューヨークやロンドン、香港、シンガポール等にあるのですが、日本のマーケットに期待していても、オペレーションコストの問題で躊躇しているところが少なくありません。
そういった運営会社の受け皿(プラットホーム)になりたいと思っていて、我々のRPAツールを出すとオペレーションコストが安くなることを彼らに伝えていきたいですね。