有料動画配信サービスの使用経験者が増加中
日本でも動画配信サービスが浸透して、ユーザーも増加傾向にあります。それに拍車をかけたのが、2015年後半にネットフリックスが日本へ上陸したことです。
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1997年に郵送DVDレンタルで起業したネットフリックスは、1999年に定額制レンタルを開始して爆発的な人気となります。その後、動画配信サービスに軸足を移したネットフリックスは、全世界で6,500万人(米国4,200万人)の会員数を抱えるまでになりました。
ネットフリックスの日本上陸に加え、アマゾンプライムが低額のプランを提供したこともあり、日本での有料VOD ( ビデオオンデマンド)の利用者は9.2%を記録しました(昨年から+1.5%)。また現在は利用していないが、過去に利用していたユーザーも含めると、14.2%まで数字を伸ばしています。
ネットフリックスは独自制作ドラマを売りにしていますが、その数は限定的です。Huluなどの他の動画配信サービスも自社制作ドラマはあるものの、ネットフリックス同様、ユーザーに提供されるコンテンツは、ケーブルテレビや地上波が作製したものが大多数を占めています。
コードカッターと称されたネットフリックスですが、人気コンテンツはケーブルテレビからの配信権を得たものが多い点は皮肉とも言えます。一時よりその存在感が薄れたと言われているケーブルテレビ局ですが、人気コンテンツを制作している点では昔と変わらないようです。その中でもケーブルテレビ局の老舗HBOをご紹介したいと思います。
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全米初のケーブルテレビ会社
Home Box Office (HBO)社は世界初のケーブルテレビ会社として、1972年に誕生します。HBO社はCharles Dolan氏によって設立されましたが、その前身はマンハッタンのホテルにニューヨークの街の情報番組を提供する会社でした。
その頃、マンハッタンにあるホテルのテレビをつけると、ニューヨークの街ガイド番組が流れていました。これをケーブルで提供していたのが同社でした。
このサービスを応用して、ケーブルを使い有料放送を一般家庭に提供出来ないかと考えたDolan氏が、HBO社を起業します。しかし創設期はサービスを提供するため、ケーブルを地下に設置するのにコストが掛かり、1973年にはメディア大手Time Life (現タイム・ワーナー)に買収されます。
1975年には通信衛星による番組配信を開始し、フィリピンで行われたモハメド・アリ対ジョー・フレージャー戦を放送して、一気に認知度が上がります。1980年代に入り、一般家庭でもケーブルテレビを導入することが一般的になります。この時期にHBOは視聴者数を一気に伸ばします。
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また1980年には“Movie Channel”に対抗して映画専門チャンネル “Cinemax”を開局します。その後、数々の名作ドラマを制作し、エミー賞やゴールデン・グローブ賞も数々受賞するなどして、ケーブルテレビ界の盟主として君臨します。エミー賞を17回も受賞したソプラノス、日本でもおなじみのセックスアンドシティなどもHBOの作品です。
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しかし1990年代末以降、ネットフリックスやブロックバスターなどが定額制の郵送レンタルDVDを始めたころから、ケーブルテレビ業界の勢いが少しずつ落ちて行きます。さらに追い打ちをかけたのが、ユーザーが見たい時に見たいコンテンツを安価に提供する動画配信サービスがスタートしたことでした。
全米中にブロードバンド網が行き渡った2000年代中頃から、ユーザーの関心は一気にケーブルテレビから動画配信サービスへと移行します。ネットフリックスやHuluの誕生で、コードカッターという言葉が生まれ、HBOも苦しい戦いを余儀なくされます。
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HBOの身を削る大胆な戦略
HBOはケーブルテレビ企業として、早めにトレンドの変化に順応しようとします。HBOの人気作品をネットフリックスやHuluに提供して、自社制作の作品をユーザーにより浸透させます。ユーザーは前記したソプラノスやセックスアンドシティもHuluなどで視聴できます。
しかしそれでも動画配信サービスの勢いは増すばかりです。最近では新たにコードネバー(Code Never )という新しい言葉が使われるようになります。ケーブルテレビにアクセスしたことの無い世代が増え、彼らをコードネバーと呼びます。
危機感を感じたHBOのRichard Pleper CEOは大胆な手に出ます。自分達の主業務であるケーブルテレビを潰しかねない動画配信サービスを開始します。2015年にHBO Nowを立ち上げ動画配信を開始しましたが、その反響は大きく、立ち上げ当初の2015年5月、6月と共に、iOSの収益ランキングで世界一位を記録します。
さらに配下の“Showtime”の動画配信サービスを開始し、その勢いはさらに増します。この大胆な方針転換できたのかをPleper 氏に訪ねたところ、“HBOには【Team B】がいる”と答えました。
【Team B】とはもともとCIAの一組織のことを言います。優秀な人材を集め、既存概念に捉われず、オープン・アイで戦略を練る組織です。同じような組織をHBOの中に作ったPleper 氏は、【Team B】の提案や助言を大切にしているとコメントしています。
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過去10年間、逆風に晒されているケーブルテレビ業界ですが、HBOは逞しく生き残りを図っています。今後の一手に注目が集まります。