我々は地域金融機関とともに投資していく
嶋内:一方で、地域の金融機関の役割の変化というのも、今すごく議論になっていて。この辺り、松本さんはどのように地域の金融機関の役割は変化している、または今後変化していく、と思われますか?
松本:今はオーバーバンキングとか言われていますが、オーバーバンキングがどういう状態かというと、いわゆる企業融資においては、資金を借り入れしたい会社に対して、メガバンクから、信用組合まで、全部が「お金を貸しますよ」と言ってきて、金利競争になって、低金利になることです。
借り手はどこから借りても一緒なので、一番金利が安いところで借りようと、ある意味過当競争になっているんじゃないか?と言われています。しかし、これは、あくまでお金を借りられる会社に限って起こっている現象です。
借りられない会社、そもそも過去実績がないとか、これからやろうとしていることの確実性がそれほどないビジネス、そういった不確実性の高いビジネスは、お金を借りられないんです。
じゃあ、借りられない会社はどうなっているかというと、メガバンクから信用組合まで、どこも貸してくれない。逆に、まったく競争がありません。借りられない会社のことを、それこそ金融機関は今までお客さんとして見ていませんでした。
でも、借りられない会社の中に、新しいビジネスだったり、これからの地域経済を活性化させる事業を行なっているのに、そこに対して金融機関は今何もできていません。「これはおかしくないですか?」と。
なので、そういった意味では、融資ではお金を出せないけれど、ファンドという武器を持てば、そういった会社にもお金を出せるんじゃないかと思ったんです。
「そういったことをすることが、まさに地域の企業から選ばれる金融機関になっていくんじゃないかな?」ということで、我々はそういった金融機関にファンドという武器を提供し、使い方を教えています。我々だけがいろいろな企業に関わっていくのではなく、地域金融機関とともに投資していく。地域金融機関の職員を、ちょっとおこがましい言い方ですが、育てていくことをさせていただいている、そういうサービスをしています。
創業が動脈とすると、事業承継は静脈
嶋内:なるほど。すごくよくわかりました。ここで、「事業承継においてファンドを活用する目的」についてお伺いしてもよろしいでしょうか?
松本:我々が今までやってきたのは、創業支援なんですね。新しく事業を興す方々に対して、リスクマネーをきちんと提供できる仕組みをつくりましょうと。
でも、創業。種まきや創業だけだと、地方ではやっぱり片手落ちというか。やはり地方経済の血液で考えると、創業が動脈とすると、事業承継は静脈なんですね。ここの部分で、当然ながら各地域金融機関は「事業承継が大事だ、大事だ」と言っていらっしゃるんですけれども、じゃあ事業承継に地域金融機関がどういうソリューションを提供されていますか?というと、現状はないんですよ。
相続税のことで税務セミナーを「税理士さんを呼んでやりましょう」とか、もしくは、最近ですとM&Aが事業承継のソリューションだと言われていますので、M&Aをする会社、売りたい会社と買いたい会社、もしくはその中間会社に繋ぐとか。「でも、それって地域金融機関の本業である融資と何の関連性があるんですか?」と感じます。
もっと言うと、これはちょっと語弊があるかもしれないんですけど、地域の会社、取引先が売られる側の企業になった場合は、地域外の同業会社が買われて、どうしても強い買い手側のほうの信用で取引がされるので、下手したら融資も、買い手がある地域の金融機関機関がメインなので、取引もなくなります。
雇用は継続していただけるかもしれませんが、ちょっと言い方は不適切かもしれませんが、買い手の養分になるのが、正直売り手のほうなので。それを促進して、地域金融機関として何のメリットがあるのかな?ということを問題視していました。
それで、じゃあどうしたらいいか?というソリューションを、ファンドを用いてやろうと思っています。
嶋内:そういう問題意識ですよね。事業承継が必要だ。お金はいる。ただし、往々にして、より資本を蓄積している、地域外のところのお金でもってM&Aがなされたときに、地方の金融機関としてそれでいいんでしょうか?という問題意識があったということ。
それを、じゃあ地域の金融機関が一所懸命やることが存在意義で合っていますか?という問題意識からスタートした、ということですね。
松本:その通りです。