今回は元リクルートのトップ営業であり、現在は営業強化のコンサルタントとして活動している リクルートマネジメントソリューションズの的場正人氏に、著書「リクルートのトップ営業が後輩に伝えていること ―一人前の営業になる6つの習慣」のポイント(後半)について伺いました。
第4の習慣
第4の習慣は『わくわくするたくらみを持ってPDCAをまわす習慣』です。営業として2~3年経つとある程度売れるようになります。ここで留まりマンネリ化する人と、さらに営業としての枠を広げていく人との差がつくのが、この第4の習慣です。
PDCAという言葉は聞いたことがあると思います。Plan-Do-Check-Actionの頭文字を取ってPDCAです。例えば「今期1千万円の目標を達成する」という営業目標に対して、1日に5件、1週間で25件、お客様に訪問し続けるという計画(Plan)を立てたとすると、それを行動に移し、訪問するのがDoです。
Checkとは、定期的に、例えば1週間に1回、自らのDoを振り返り、評価と原因を確認することです。平均で1日に4件しか回れていなかった場合、その原因が、会社で報告書を書く作業に時間取られ過ぎていたためだったとしましょう。
であれば、この作業そのものを効率化することを考える、あるいは1件回った時にその周辺で飛び込み営業をするなどの工夫をして、何としてもその5件をやりきるという改善行動がActionです。また、1日5件訪問することをやりきっても目標達成が難しそうと判断した場合は、Planそのものを見直します。
例えば、「1日7件に増やす」とか、「1日5件訪問に加えて、1週間で一番大事だと思うアポイントに対し、お客さま研究を徹底的に行ってから訪問する」など、追加の打ち手を考えます。
一番伝えたいメッセージは、「わくわくするたくらみ」を持つことです。「わくわく」とは何かと言うと、PDCAのPにおいて、会社から与えられた目標に対してのみ計画を立てるのではなく、その上に自分の意思=Willを乗せて計画してほしいということです。
Willは「自分はこうありたい、こうなりたい」という思いです。皆さんは今の会社に入社した時、将来どのような人になりたいとイメージして入社しましたか?どのような価値を自分は提供できる人になりたかったですか?短期的な目標数字だけに追われていると、入社した時のWillを忘れがちですが、私は常にWillを頭の中に置いて行動していました。
つまり、会社から与えられた数字を達成するためのPDCAとは別に、自分が実現したい営業像のために何をPDCAに落として回すのか、これを考えて実践してすることが、第4の習慣です。できればそのWillを、皆さんにとってわくわくするものにしてもらいたいですね。
第5の習慣
第5の習慣は『お客様の心をつかむコミュニケーションの習慣』です。営業はお客様から「あなただから信用して話そう」と貴重な情報を話していただいたり、もしくは「あなただから話を聞こう」と時間を割いていただけるなど、お客様の心を掴めるかどうかが大切です。
後述の第6の習慣「お客様視点の仮説をみがきあげる習慣」と、この第5の習慣は、お客様の心と課題を掴むコミュニケーションを相乗効果で可能にし、営業としての付加価値を広げます。
お客様の心と課題を掴むコミュニケーションをする上で大切なことが、お客様に興味を持って見るということです。そうすると、お客様が必ずサインを出していることに気がつきます。例えば「あなたと会って話をすることに価値を感じていませんよ」という時は、不愛想な表情をしていることが多いでしょう。
逆にあなたの話に興味を持ってくださったら、ちょっと身を乗り出したり「ちなみにどんなものがあるのですか?」と聞いてくるでしょう。そのようなお客様のサインを決して見逃さず、お客様の気持ちに沿った会話をし続けることが大切なのです。
お客様が言うことの多くは、断片的で表面的です。例えば「若手社員の基礎力を強化したい」とお客様に言われた時、売れない営業は「わかりました、若手社員に向けた基礎力強化研修を提案します」といきなり提案に入ってしまいます。しかし、売れる営業は「そもそもなぜ今若手の基礎力に問題意識を感じていらっしゃるのですか?」と背景について聞きます。
「上・横・下」と私は言っているのですが、「上の質問」とは背景に対する「なぜ?」という質問です。例えば「なぜ若手の基礎力を検討されているのですか?」と聞いた時、ある会社では「先日同行した若手社員が、お客様と雑談もできなかったんだ」「そういう雑談がちゃんとできる状態のことを基礎力と言っているんだよ」と話してくれます。
また別の会社では「実はこの前、若手社員が3人も立て続けにメンタル不全で会社に来なくなってしまった」「精神的なタフさが今の若手社員には備わっていないと感じていて、そういうタフさを若手の基礎力と言っているんだよ」と話してくれます。
こう聞くと、同じ「若手社員の基礎力」という課題に対しても、それぞれの会社で、打ち手が大きく変わることがわかります。「背景」を確認せずに提案する営業は、売れない営業が多いのです。
「横の質問」は具体化のための質問です。「若手の基礎力とおっしゃいますと、具体的にはどのようなことを意味されていますか?」と聞くと、「こういう場面での基礎的なコミュニケーションのことを言っているんだよ」とか「こういうメンタル的な状態のことを言ってるんだよ」などと話してくれます。
「具体的には?」がキーワードですね。もしくは「他にはありませんか?」と質問を重ねて、さらに具体化を進めることも有効です。
「下の質問」は、課題の影響についてもっと掘り下げる質問です。「若手の基礎力が弱いまま放置すると、どのような悪影響があるのでしょうか?」と、影響を具体化します。
逆に「状況が改善するとどのようないい影響がありますか?」という質問で、課題が解決した後の状態が明らかにイメージできるようになればなるほど、お客様はその課題を解決したくなります。もしくはさほど重要ではない課題だった場合は「これは着手する必要はないな」とお客様が自ら気づくこともあります。
こういうことに気づかせてくれる営業はお客様にとって貴重な存在になるので、何かあった時には必ずあなたに声がかかるようになります。逆に言えば、「若手の基礎力ですね。わかりました!」と言って提案してくる営業がいたら、その瞬間、この営業とはもうこれ以上会話しても無駄な時間になると判断し、2回目のチャンスはきっと来なくなります。この辺りのコミュニケーションのポイントが、第5の習慣です。
第6の習慣
第6の習慣は『お客様視点の仮説を磨き上げる習慣』です。これが営業としての究極の習慣です。お客様に会う前に「何らかの仮説を考えてから行きなさい」とか「シナリオを考えてから行きなさい」と先輩社員に言われたことがある人も多いと思いますが、その仮説とかシナリオには、営業都合の仮説と、お客様視点の仮説とがあります。
おそらく世の中の半分以上の営業が考えている仮説が、営業都合の仮説です。例えば「この商品を売るために、お客様にどのようなニーズがあって欲しいか」とか「この商品を売るためには、どのようなことをヒアリングしようか」と考える仮説は、全て営業都合の仮説です。
もう少し具体的な例を1つ挙げます。ある人が、掃除機が欲しくてお店に行きました。その時に、ある販売員が「お客様、この掃除機はとても軽いですよ。持ったまま階段を上がるのも楽ちんです。排気がきれいなので、小さいお子さんがいても安心ですよ」と特長を紹介したところ、その人は売り場を離れてしまいました。なぜでしょうか?
実はこの人は、独身でマンション暮らしだったのです。子どももいなければ2階もありません。ですから、この販売員が挙げた特長には全く興味がわかなかったのです。
この人がもう一度売り場に立ち寄ると、今度は違う販売員が声をかけてきました。「お客様、お仕事が忙しくて夜帰りが遅いと、掃除機の音が気になってかけづらいですよね」と。「そうなんです。私帰りが遅くて、夜掃除がしづらくて困ってまして・・・」「この掃除機なら音がとても静かで、ご近所を気にせずに掃除ができますよ」「本当ですか?」「ちなみにお客様、マスクをしていらっしゃいますが、花粉症は大丈夫ですか?」「まさに私花粉症なんです。それもあって、夜帰ったらすぐ掃除機をかけて花粉を取り除きたいんです」「この掃除機ならフィルターの性能が高いので、花粉もほとんど除去できますよ。」
このようなやり取りの後、この人は掃除機を買いました。最初の販売員と後者の販売員の会話の違いが、営業都合の仮説かお客様視点の仮説かということです。
最初の販売員はお客様を全く見ていません。つまり、お客様が誰であっても同じ、見なくても言えることを言っているだけです。でも後者の販売員は、お客様がスーツを着ていることから、「バリバリ働いているキャリアウーマンで、きっと帰ってから掃除をしたくても近所への騒音を気にして、掃除がしづらいだろうな」と仮説を立てています。
そういうお客様視点の仮説を立てられる営業は、とことんお客様に興味を持って見ている。そして、何らかの事実に基づいた仮説を立ててお客様と会話をしています。
事実に基づいた仮説をぶつけられると、大抵のお客様は悪い気がしません。当たっている時は話がさらに盛り上がるし、外れている時は「いや、そこではなくて実は私こういうことに興味があって来ているんです」とお客様から追加情報を教えてくれることがあります。
しかし、事実に基づいていない見当違いの仮説、つまり商品都合とか営業都合の仮説を営業からぶつけられると、お客様はむしろ不愉快になります。結果、お客様が離れて行ってしまったり、心を閉ざしてしまいます。ぜひ皆さんには、このお客様視点の仮説を考えられる営業になってほしいと思います。これが第6の習慣です。
著者からのメッセージ
私自身は、営業ほど面白い仕事はないと心から思っています。今はコンサルタントという肩書になっていますが、心・魂は常に営業にあります。
営業力強化のコンサルタントとして大切なことは、専門知識とか構造化力、課題解決能力だけではなく、お客様と徹底的に向き合い、自分に心を開いたお客様でないと言って頂けないことを引き出せるような人間力、関係性を作る力を身に付けることだと思っています。
結局どんな仕事であっても、成長できるかどうかはPDCAを自ら回すサイクルの早さと数で決まります。自分なりの意志(Will)を持ってやってみてください。営業ほど自由でPDCAを早く回せる職種は世の中にありません。「行ってきます」から「ただいま」とオフィスに帰ってくるまで、時間の使い方も行動もほぼ自由なのですから。
「今回のお客様にはこういうことを提案してみよう」「こういうセリフから言ってみよう」と、日々実験ができます。実験すればするほど、お客様からは「反応」というわかりやすいフィードバックを毎日いただくことができます。皆さんの意識次第で、いくらでも成長できる土台や材料があるのです。
それを徹底的に2~3年繰り返した時、営業ほど成長できる仕事はないのです。ぜひ成長を楽しみながら、この6つの習慣を意識し、営業という仕事に取り組んでみてください。
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著者紹介
(株)リクルートマネジメントソリューションズ エグゼクティブコンサルタント
1993年リクルート入社。96年より現在のリクルートマネジメントソリューションズ
へ在籍し、営業の最前線で98年から2001年まで4年連続でMVP.VPを受賞。02年から
営業マネジャーになり、2年連続で最優秀営業課賞を受賞。その経験・実績を活か
し、08年より営業コンサルタントとして数多くの企業の組織強化および営業マネジ
ャー、営業担当の教育に携わっている。
営業組織における勝ちパターンの構築・浸透プロジェクト、これからの時代に通用
する価値提案営業が出来る営業を組織ぐるみで育てる営業教育体系構築プロジェク
トなどの経験・実績を豊富に持つ。 顧客に提供した価値の大きさや生み出したナ
レッジの組織貢献の大きさなどで評価する全社コンテスト「ナレッジグランプリ」
においても歴代最多受賞履歴を持つ。
北海道大学工学部機械工学科卒業、航空機自家用操縦士・航空機事業用操縦士資格
保有、著書に「リクルートのトップ営業が後輩に伝えていること ~一人前の営業
になる6つの習慣」(日経出版)がある。リクルートグループはもちろん、社外講
演も多数こなし、いずれも好評を博している。