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下請法に該当するか否かは、取引主事者の資本金や、取引内容で決まる。下請法はミスによるうっかり違反をしがち。一方で、違反が発覚すればIPOのスケジュールに大きな影響をもたらすこともある。違反防止のためには、支払期限や支払額、書類の保管をはじめ、6つのポイントに注意が必要。
下請法違反のリスク
中小企業庁の調べによると、平成26年度、下請法に基づき親・下請事業者あわせて約24万件に対し書面調査を行い、調査の結果、違反のおそれのある親事業者1,115件に立入検査等を実施し、このうち999件の改善指導を行ったそうです。
後で説明しますが、下請法の対象となる事業を営む企業は限定されるので、実際は各企業とももっと高い確率で書面調査を受けています。
また、IPOの際の条件の一つとして、コンプライアンス体制の整備が求められますが、意外と下請法は見落としがちな法令でもあります。
実際、下請法という言葉を聞いて、どういう法令かをイメージできるIPO志向の経営者はあまり多くないのではないでしょうか?
本稿では、一般にはあまりなじみのない下請法について、IPO志向の経営者が知っておくべきポイントを解説します。
下請法の基本的な考え方
まずは下請法の基本的な考え方について、中小企業庁のポイント解説下請法に沿って解説します。
下請法については,
① 取引当事者の資本金(又は出資金の総額)の区分
② 取引の内容の2つの側面
から注意しなければいけません。
下請法に該当するかどうかの確認ポイント
まず、社内で以下の業務を他社に業務委託しているかどうか、社内の取引業者リストや経理の買掛金の摘要などを利用して確認してください。
物品の製造
例えば、自社が販売したり、製造する製品やその部品の全部・一部の製造を委託する、自社の製品の製造に使う機械の製造を委託している取引業者です。
物品の修理
例えば、自社が販売したり、製造する製品やその部品の全部・一部の修理を委託している取引業者です。
プログラムの作成
例えば、自社が販売したり開発を受託しているTVゲームソフト,会計ソフトなどの開発・制作を委託している取引業者です。
運送・物品の倉庫保管・情報処理
例えば、自社が商品の運送を委託したり、商品の倉庫への保管を委託している取引業者です。
これらの取引業者との関係が下請法に該当するかを判断する場合、資本金の額を、以下の通り2段階で相対的に判断します。
A 委託者側の資本金が3億1円以上の場合、3億円以下の資本金の会社が全て、下請事業者になります。
B 委託者側の資本金が3億円以下1千1円以上の場合は、1千万円以下資本金の会社が全て下請事業者になります。
図にすると以下のような関係になります。
上記の4つの取引業者ではなく、以下の2つの取引業者の場合は、資本金区分が3億円から5千万へと低額に変わります。
- ・放送番組や広告の制作,商品デザイン,製品の取扱説明書,設計図面などの作成など、プログラム以外の情報成果物の作成
- ・ビルや機械のメンテナンス,コールセンター業務などの顧客サービス代行など、運送・物品の倉庫保管・情報処理以外の役務(サービス)の提供
これらの取引業者の場合、前述のA・Bの条件が、以下のように変わります。
A’ 委託者側の資本金が5千万1円以上の場合、5千万円以下の資本金の会社が全て、下請事業者になります。
B’ 委託者側の資本金が5千万円以下1千万1円以上の場合は、1千万円以下の資本金の会社が全て下請事業者になります。
以上のように、資本金区分と取引内容に気を付け、まずは自社の取引業者との取引が下請法の対象になるかどうかをきちんと把握することがポイントです。
IPOを目指す経営者の場合は、新株発行による増資等で、資本金が増加することが起きますので、その際に社内の取引先が、新たに下請法の対象になってしまう可能性があります。
資本金の変動があるときは、常に下請法の対象となるかどうか、取引業者との取引を確認する社内体制を整地しておくとよいでしょう。
下請法が適用された場合の注意ポイント
そもそも下請法の対象になるかどうかという観点からここまで記載しましたが、仮に取引業者が下請法の対象になるとしたら、どのような点に注意したらよいのでしょうか?
筆者がこれまで実務上で、官公庁からの指導監督で見たことのあるものを、事例を交えて簡単に紹介いたします。
① 発注した物品を受領した日から60日以内の支払い期限の順守
A社は、自社の経理事務の効率化のため、取引先との支払日、締日を統一しようとして、取引先との支払日を一律の支払日に統一したところ、取引先の一部に発注した物品を受領した日から60日を超える支払日となる先ができてしまった
⇒会社側に悪気がなくても、こういった事務ミスで法令違反となってしまうこともあります。
② 買いたたきの禁止
こちらは、確信犯的な場合と仕事熱心な担当者が知らずに値下げ交渉や価格据え置きをした結果、法令違反となる場合がある事例です。
買いたたきかどうかは、「通常支払われる対価」と「下請事業者の給付に対して支払われる対価」との乖離状況や、必要に応じその給付に必要な原材料等の価格動向、また、下請代金の額の決定方法(下請事業者と十分な協議が行われたかどうかなど対価の決定方法)や対価が差別的であるかどうか等の決定内容を勘案して総合的に判断します。
下請けの取引業者が利用する原材料価格が上がっているのに、十分な協議をせず、一方的に下請け金額を据え置くなどの行為がこれにあたります。
詳しくは、中小企業庁 ポイント解説下請法の事例をご覧ください。
③ 注文書・注文請書の記載要件の整備と交付
下請法では、取引のための書類に記載すべき事項が定められています。また、記載事項はきちんと書式やフォームに取り込まれていても、担当者が無知で、記載漏れをする場合があります。
検査を受けた際に、そもそも契約書式の不備や、記載事項の漏れを指摘されることもよくあります。そして、そのような起債条件を満たした書面は原則として取引業者に交付せねばなりません。自社で担当者が机に保管していたりすることがないようにしてください。
④ 取引に関する書類の2年間保存
仮に記載事項がきちんと記載されていても、その書類をきちんと保管しておかないとやはり法令違反となります。特に、下請け取引業者との取引量が多い場合は、2年間きちんと書類を保管しているか、注意してください。
責任部署を設けず、担当者が契約書を個人の机の中に保管したりすると、保存義務に違反してしまう可能性があります。
⑤ 不当な経済的利益提供の要請の禁止
協賛の名のもとに、取引業者から自社の便益のために金銭その他の経済的便益を受け取ることも、下請法に反する場合があります。
例えば、自社の○○年記念祝賀パーティーや、社内イベントなどへの度を過ぎた協賛の強制は、下請法に反する場合があることを知っておきましょう。
⑥ 子会社をう回した上記の取引の禁止(トンネル規制)
資本金を3億円以下にした子会社を経由することで、下請法の対象外の範囲を広げている会社もあるかもしれません。しかしこれも規制されています。
下請法まとめ
IPOの準備段階においては、コンプライアンス体制整備の観点から、証券会社の引受審査部門や東証から法令違反が厳しくチェックされ、発見されればIPOのスケジュールにも影響します。重大な違反であれば、上場自体が不可能になる場合もあります。
下請法については、上記で説明したような基本的な資本金区分と取引内容区分に応じて取引業者を社内で管理し、きちんとした社内の基本契約と書式を定め、下請法の対象となる取引業者との取引については、担当する社員への教育を図ってミスを防ぐことで十分対応できる法令です。
IPOを志向する起業家のみなさんには、下請法に関する基本的な事項を理解いただき、スムーズなIPO準備を進めていただくことを期待しています。