今回はベンチャー企業で働こうとする若い方に向けて、ベンチャー企業の退職金の相場や制度について、基本的なところから解説します。
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ベンチャー企業と退職金制度
「ベンチャー企業と退職金」という記事のタイトルですが、結論から言うと「ほとんどのベンチャー企業に退職金制度はない」ことが多いです。
「多い」と不明確な書き方をしたのは、一口にベンチャー企業といっても、その企業の成長ステージによって、制度の有無が異なるからです。
成長ステージを以下のように5段階に分けるとすると、成長ステージ後半の④グロース⑤レイターの段階で退職金制度を含む各種の制度がようやく整ってくるようになります。
①シード(設立準備段階)
②スタートアップ(設立~5年程度)
③アーリー(設立後3年~事業売上の計上開始)
④グロース(事業売上の安定化、単月や単年黒字)
⑤レイター(事業の成長拡大期、上場準備)
ベンチャー企業が退職金制度を整えるのは、優秀な人材の確保と、上場を見据えた各種人事制度の充実の一環で行われるからです。すなわち、退職金制度ありきでベンチャー企業が存在するわけではなく、あくまでも事業を拡大する一環で、徐々に退職金制度が整備されていくと考えてください。
ただし、シードやスタートアップの時期のベンチャー企業に退職金制度はありませんが、自分自身で経営陣と共に制度を構築できることや、早期に会社に参画してリスクを取った分、ストックオプションによるキャピタルゲインの恩恵を受けやすいというメリットもあります。
これらを考慮して自分自身にあった成長ステージのベンチャー企業を選択しましょう。
ベンチャー企業における退職金制度の種類
では、ベンチャー企業では、どのような退職金制度があるのか、自社で整備する場合と中退共を利用する場合の2つに分けて説明します。
(1)自社で退職金制度を設計
上場を見据えたり、人材確保のために自社で退職金制度を整備する場合です。
この場合も、ベンチャー企業では単純に金銭を給付する退職金制度だけでなく、行使条件を退職後○日以内とした、退職金的なストックオプション制度を導入したり、その混合といったような制度が利用されることになるでしょう。
(2)中退共の退職金制度を利用
中退共制度は、昭和34年に中小企業退職金共済法に基づき設けられた中小企業のための退職金制度です。加入制度を満たし、一定額の掛け金を企業が支払うことで、社員の退職時に退職金を支払うというものです。
この中退共制度は、独立行政法人勤労者退職金共済機構・中小企業退職金共済事業本部(中退共)が運営しています。
古くからの中小企業では中退共を利用している企業をよく見ますが、いわゆるベンチャー企業では、あまりなじみがなく、導入している企業は少ないかもしれません
ベンチャー企業における退職金の相場
ベンチャー企業における退職金の相場について、大規模な調査や統計結果を探すことは難しいです。その理由としては、①そもそもベンチャー企業に退職金制度がない場合が多い②ベンチャー企業が退職金制度を活用するまで存続していない③ベンチャー企業は事業に忙しく、官公庁や民間調査機関等の調査アンケートに回答しない場合が多く、データが集まらない、などの理由と想定されます。
その中で、ベンチャーを含む中小企業の統計データとしては、各都道府県の産業労働局の調査結果が参考になります。
東京都では、従業員が10人~300人未満の都内中小企業のみ対象とした賃金、退職金等についての調査を毎年実施しており、ベンチャー企業のベンチマークとしても価値がある調査といえます。
みなさんも自らが働こうとする地域の産業労働局の調査結果を参考にしてみてください。
参考URL:東京都産業労働局「中小企業の賃金・退職金事情(平成26年度版)」
出典:www.sangyo-rodo.metro.tokyo.jp
平成26年度調査によれば、退職金制度の有無について「制度あり」と回答した企業が78.9%、「制度なし」と回答した企業が20.0%となります。中小企業であっても、退職金制度なし、というのは少数派であることがわかります。
また、モデル退職金(卒業後すぐに入社し、普通の能力と成績で勤務した場合の退職金水準)をみると、定年時の支給金額は、高校卒が12,191 千円、高専・短大卒が12,345 千円、大学卒が13,839 千円となっています。
ベンチャー企業で退職金制度がある場合は、上記の金額を念頭において、またストックオプションの額なども考慮して、退職金が妥当かどうか判断してください。
退職金制度がないからと言って「福利厚生が悪い」ではない
いかがだったでしょうか?
ベンチャー企業における退職金制度の調査はまだまだ未開拓の分野ではありますが、本稿がベンチャー企業で働こうとするみなさんに役に立てば幸いです。