今回は、『起業の科学』の著者田所雅之氏に、新書籍『御社の新規事業はなぜ失敗するのか?企業発イノベーションの科学』を執筆した経緯や企業発イノベーションのポイントについてお話を伺いました。
書籍『御社の新規事業はなぜ失敗するのか?企業発イノベーションの科学』の執筆背景
ー今回の書籍『御社の新規事業はなぜ失敗するのか?企業発イノベーションの科学』を執筆しようと思った背景を教えてください
田所雅之氏(以下田所氏):
『起業の科学』を出版した時、ベンチャー起業の経営者やスタートアップを志す方に向けて書いたのですが、蓋を開けて見ると、読者の6〜7割くらいが大企業の方が多かったという事実がまずありまして。
というのも、講演後の交流会で、「メソッドはわかった。けれど我が社のような大企業にどのように組み込んでいけばいいのか?」という質問・課題をいただくことが多かったのです。
ならば、その課題を解決に導いていこうと執筆しました。なかなか一歩踏み出せない新規事業担当者の背中を教え上げるような知識・ノウハウを盛り込んでいます。
大企業における新規事業が上手くいかない理由
ー大企業からのお問合せが多かったのですね。現在多くの企業が新規事業に取り組んでいます。ただ成功事例をあまり聞きません。新規事業が上手くいかない理由は何でしょうか?
田所氏:
高度経済成長期を支えた方々がまだ現役で働いていて、彼らが築いてきた成功方法やノウハウが今の2010年・2020年代のやり方に合わなくなっているところかなと思っています。
今の時代は高機能なドリルや高機能なサービスを作ったとしても、売れないわけです。
大切なのは「ユーザー体験」を考えること。「ドリルの穴そのものの発見」や「穴に何を通したいのか」などのインサイトの発見ですね。
70〜80年代は、物を作れば売れるという「サプライサイドエコノミー」だったわけです。対して、現在は、ユーザーの声をベースにして新規事業を磨いていくことでシェアを拡大していくという「デマンドサイドエコノミー」に経済の主導権が変わってきたということですね。
「企業発イノベーション」とは
ー時代の変化によって、経済の主導権が変わってきたということですね。書籍において「企業発イノベーション」という言葉を使われていますが、こちらのキーワードについて教えてください。
田所氏:
企業発のイノベーションのやり方とスタートアップを興すというのは、やはり違うわけです。
スタートアップは顧客との対話をベースにサービスを作るという流れです。
対して、大企業は、既存のキャッシュカウのビジネスへのリソースを割いてまでやることなのか、カニバリゼーションが引き起こしてまでやることなのかという課題があります。
かなり難易度が高いですよね。
となった時に、自分たちのイノベーションに対する成熟度や組織がどれくらい準備整っていくのかを捉えた時に、どのような施策を組み合わせれば良いのかを示したのがこちらの施策マップです。
縦軸がいわゆるエンゲージメントです。上に行くほど、多くのリソースを利用することになります。
横軸は、誰を巻き込むか。右に行けば行くほど社会全体を巻き込んでいきます。
企業としては、既存事業があったり、優秀な社員がいたりする中で、「イノベーションのやり方」が整備されていない状況だと思うのです。自社の状況を評価した上で、どの施策を自社に導入するのかということをこのマップで読み取ることができます。
ー既に事業があり、社員もいる中で、どう新規事業を行なっていくのかがスタートアップの違いであると。そして、影響する範囲や協力の深度によって、イノベーションの施策が変わってくるということですね。田所さんありがとうございました。