マーケティング用語の金字塔「STP」

あなたはどこでマーケティングを学びましたか?
経営学部や商学部? 会社? 独学? セミナー?

マーケティングには「本流」と「傍流(支流)」があります。

「本流」とは、顧客が求めるものを知り、作り、届け、価値を得てもらうためのプロセスの根幹に迫るものです。
コトラーなどの古典的理論を代表としますが、その変化は緩やかになってきています。

「傍流(支流)」は、本流から状況や戦場に応じて分岐したマーケティングの流れです。
DRM、コンテンツマーケティングなど様々な用語が飛び交っています。

「本流」と「傍流」のどちらかを極めているだけではいけません。

「本流」は基礎となるものなので、これがないと真のマーケッターに辿り着くのは難しくなります。
「傍流」は各市場に最適化されており、最新の知見も含まれています。あなたが熟練の戦士だとしても、棍棒で現代の戦場を走るのは愚かなことです。

書籍やセミナーで「傍流」を学ぶ人は多いですが、「本流」をきっちりかっちり学んでいる人は少数。理解していたとしてキーワードレベルだったり。

マーケティングの「本流」には、マーケッターがその頭と心に刻まなければならない考え方が存在します。

今回紹介する「STP」もその一つ。

フィリップ・コトラーが提唱した、マーケティングの基礎にして真髄。
「STP」について学んでいきましょう。

STPとは? コンセプトを識る

STPは有名なマーケティング用語なので知っている人も多いでしょう。
まずは自分なりに説明してみてください。

Sはセグメンテーション、Tはターゲティング、Pはポジショニングです。

STPの焦点はまず「ターゲティング(T)」です。
「誰に」その価値を届けるのかだ最重要ポイントになります。

しかし「誰に」を特定するためには「誰がいるのか」を把握しなければいけません。
それが「セグメンテーション(S)」です。
市場を細分化し、どのようなニーズがあるのかを把握します。

最後、「誰に」がわかったら「どうやって」が必要です。
最終的にその商品を選ぶかどうかは顧客次第なので、言い換えると「どうやってその人に選んでもらうか」になります。

ここが「ポジショニング(P)」です。

考える順番は「S→T→P」ですが、コンセプトから見ると「S←T→P」になりますね。

マーケティングの基礎となる「誰にどのような価値を届けるのか」という問い。
STPはその問いに答えるための必須ツールなのです。

STPのS|セグメンテーション

ここからはSTPのそれぞれについて学んでいきましょう。

「焦点はターゲティングだ!」とか言っていましたが、普通にセグメンテーションから進めていきます。

「誰にどのような価値を届けるのか」。

この「誰に」に対する究極の答えは個人です。
特定の誰かを救うための価値。
優れたプロダクトやサービスのスタートはここだったりします。

しかしビジネスとして成長させるためには、個人ばかり考えてもいられません。
そこで考えるのは「かたまり」です。

あるレベルで似た選好や悩みを持つグループ。いわゆる「市場」ですね。

この市場を、次のステップである「ターゲティング」がしやすいように細分化していくのが「セグメンテーション」になります。

 

セグメンテーションについてはこちら。

『セグメントとは?車ではどう分類している?マーケティングに欠かせないキーワード』

セグメンテーションの視点① ニーズかウォンツか

セグメンテーションを進めていく上で持つべき視点として「ニーズ」と「ウォンツ」があります。

一応説明しておきましょう。
ニーズは欠けているもので、ウォンツはニーズを満たす特定のものです。

「辛いものが食べたい」というニーズに対して、「キムチ」や「カレー」というウォンツ。
「興奮したい」というニーズに対して、「遊園地」「旅行」「映画」というウォンツ。

ご覧の通り、一つのニーズに対して複数のウォンツが考えられます。

セグメンテーションをする時、自分が「ニーズ」で考えているのか「ウォンツ」で考えているのかを区別しておきます。

ニーズとウォンツを区別しておく理由は「抽象度」を把握しておきたいからです。

ニーズに基づいて行われるセグメンテーションは抽象度が高めです。
ウォンツの部分を自由に換えられるので、より自由な発想が可能となります。
「Why」に着目して考えていきましょう。

ウォンツに基づいて行われるセグメンテーションは抽象度が低めです。
より具体的な機能や体験に注目したアイデア出しになるでしょう。
「How」や「What」を使った思考になります。

実際のセグメンテーションでは、ニーズかウォンツどちらか一方だけで考えるのではなく、「行き来」して考えましょう。
「両方をごっちゃにする」のではなく、「区別した上で両方考える」。これが大事です。

セグメンテーションの視点② サイズは合っているか

次に考えるべきはつくる「セグメントのサイズ」、大きさです。
どれくらいの規模のセグメントがほしいのか、考えてみましょう。

大きすぎてはマーケティング活動が上手くいかず、小さすぎるとビジネスになりません。
難しいのは、最適な大きさは市場や戦略ごとにことなってくることです。

市場における選好のばらつきが大きいほど、セグメントは小さく切っていく必要があります。

「サイズ」に着目しだすと、目当ての市場が思っていたよりも小さく見えてくる場合もあるでしょう。
そういった時は一度「ニーズ」に戻ったセグメンテーションを行うことでサイズの調整が可能です。

セグメンテーションの視点③ セグメンテーション変数はどう使うか

セグメンテーションをより効率的に進めるために、どのような切り口で行っていくかのプリセットをまとめておいてくれたものがあります。
それが「セグメンテーション変数」です。

一般に「地理的変数」「デモグラフィック変数」「サイコグラフィック変数」「行動変数」に分けられ、多くの属性を並べてくれています。

セグメンテーション変数は非常に便利なもので、適当に組み合わせればなんとなくのセグメントが出来上がります。

しかしその「セグメント」は本当に狙うべきセグメントになるでしょうか?
マーケッターに都合のいいセグメントを工作してはいないでしょうか?

「セグメンテーション変数」は本当のセグメントを見つけるための「きっかけ」として使うようにしましょう。

例えば「休日に上野にいる50~64歳の男性」のニーズは何なのか。
「休日に家に居にくい男性」なのか「時間に余裕ができてきて、芸術などの教養に目覚めた男性」なのか。

このような思考の中で、あらたなるセグメンテーションの切り口が見つかるはずです。

STPのT|ターゲティング

次は「ターゲティング」です。

しつこいようですがコンセプトを復習します。

そもそも人は皆違うものです。
その人に最大の価値を届けたいのであれば、その人のことだけを真剣に考えて、真摯に取り組むことが一番です。

他の人のことは捨て、その人だけに全リソースを注ぐ。

しかしそれでは開発費もプロモーション費も青天井です。
だから先のステップで「セグメント」をつくったわけですね。

ターゲティングのプロセスではどの「セグメント」に価値を届けるのかを選びます。
逆に言えばどの「セグメント」を捨てるかを選ぶのです。

そうすることで、よりターゲットに合った商品をつくることができ、よりターゲットに近づくプロモーションを練ることができます。

ちなみに選ぶ「セグメント」は一つだけでなくても構いません。

ターゲティングの視点 標的市場選択の5パターン

ターゲティングのパターンについては、市場-製品の2軸で使った9マスのマトリクスで説明されることが多いです。確認しておきましょう。

パターン① 単一セグメントへの集中

一つの市場・一つの製品に集中するパターンです。
リソースを集中できるので、成功すれば最高効率を実現しうるパターンになります。

一方で失敗したときのリスクが高くなっています。
そのため、多くの企業は複数セグメントを狙いがちです。

パターン② 選択的専門化

上図を見れば分かる通り、この戦略ではセグメント間のシナジーはほとんどありません。

では何が魅力なのかというと「リスクの分散」ですね。
一つのセグメントでコケても、他のセグメントへの影響は最小で済みます。

パターン③ 製品専門化

一種の製品をつくって、それを複数の市場に展開するパターンです。
開発リソースはひたすらその製品に注力し、広く売っていくパターンなので、ある意味王道と言えるかもしれません。

リスクとしては「代替品の登場」ですね。
携帯電話がスマートフォンにとって代わられたような状況に入ってしまうと、全セグメントで勢力を失いかねません。

パターン④ 市場専門化

ある市場に集中して、そこに複数の製品を投下していくパターンです。
その市場においては絶対的な評価を得ることもできる戦略になります。

一方で、その顧客の変化に振り回される戦略との言えるでしょう。

パターン⑤ フルカバレッジ

すべての市場にすべての製品を提供するパターンです。
当然ながら、圧倒的な体力のある企業しか採用できない戦略になります。

「無差別型」と「差別化型」があります。

「無差別型」は、セグメント間の違いを無視した大規模マーケティングで、同じものを提供します。
コストを抑制できるので、価格における優位性が獲得できる戦略です。

「差別化型」は、セグメントごとにマーケティングを展開します。
差別化型の場合、売上が大きくなる傾向にありますが、同時にコストも上がります。

以上、5つの標的市場選択パターンでした。
最適解は企業によって異なるので、貴方の会社がどの戦略をとるべきか、考えてみましょう。

STPのP|ポジショニング

ターゲットが決まったらSTPの最後、「ポジショニング」です。

セグメンテーション、ターゲティングに比べると、ちょっとわかりにくいプロセスかもしれません。

「誰にどのような価値を届けるのか」という問いに対しては、すでに八割がた答えています。

ポジショニングは「どのような価値」の部分をより強調するステップです。

冒頭のSTPコンセプトの説明でも述べた通り「最終的にその商品を選ぶかどうかは顧客次第」です。
好きな人が決まったからといって、それだけで振り向いてもらえるわけありません。
その人には他にも選択肢があります。貴方とは異なる方向を向いています。

マーケッターは「振り向く理由」を用意しなければならないのです。

貴方が目をつけた「セグメント」には既に競合がいます。
その競合に対して貴方の商品を選ぶ理由は何なのか。
また、どのような理由を用意すれば買ってもらえるのか。

それが「ポジショニング」です。

ポジショニングの視点① 知覚マップを使えばいいのか

ポジショニングの手段としてわかりやすいのは「知覚マップ」です。

しかしながら知覚マップには限界があります。
既存の2軸の上で「Aとは違う」「Bとは違う」といった違いに着目したポジショニングになりがちだということです。

本来のポジショニングは、自分たちの製品をどのように顧客の心に位置づけるか、です。
つまり「僕らの商品はこうだ。だからAやBとは違う」とならなければなりません。

既存のものとは異なる、自分たち独自の明確なコンセプトを打ち出すことが大事です。

とはいえ「知覚マップ」も分析ツールとしては有用なので積極的に使っていきましょう。

ポジショニングの視点② 理解されるためには

ポジショニング成功のためには、自社のメッセージを顧客に理解してもらう必要があります。

そのためにはまず「継続性」が必要です。
コロコロとメッセージを変えるのではなく、一貫したコンセプトとメッセージを持ちましょう。

また「顧客がもともと持っているイメージ」に結びつけることも重要です。
「こんな不満あるよね?」「これ、もう少しこうだったらとか思わない?」のように顧客の理想を探してみましょう。

逆に「顧客がまったく持っていないイメージ」を使うメッセージは不適切です。
基本的に人間は、自分と関係のなさそうな対象を理解しようとしません。現代は情報が飽和しているので特にですね。

自社のメンバーと顧客ではその商品と過ごした時間に大きく差があります。そのあたりを考慮して「なぜその人がその商品を使うのか」に立脚したメッセージを作りましょう。

STPなしで成功した商品はあるのか

STPはマーケティングの本流に関わる概念です。
誰かに価値を届けるというのがマーケティングである以上、マーケティングがある所にSTPがないということはほぼあり得ないと言えるかもしれません。

試しに成功した商品・サービスについて、そのマーケティング担当者になったつもりでSTPを遡ってみましょう。

貴方のビジネスに役立つヒントが、きっと見つかるはずです。

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