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サラ・カサノバ氏、そして日本マクドナルドのゆくえ
347億円。この数字は2015年12月期の最終損益を発表した日本マクドナルド社のものです。
2014年度に続く赤字で、2001年上場後には最悪の赤字の決算となり、店舗数も2,956店(15年度期末)と17年ぶりに3,000店を下回り、売上高も大きく減少しています。
さらに2016年2月に発表されたこの決算に先立ち、ショッキングなニュースが報道されました。親会社の米国マクドナルド社が保有する、日本マクドナルド社株式の一部を売却することを検討しているとのことです。
報道では既に商社やファンド会社に売却の打診をしているそうで、日本市場を良く知る企業と組み、現在の泥沼からの脱出を目指していく見込みです。
しかし、仮に株の売却が行われた場合、米国マクドナルドが鳴り物入りで送り込んだ現社長サラ・カサノバ氏はどうなるのでしょうか?
世界各国を渡り歩くマーケティングパーソン、サラ・カサノバ氏
出典:www.google.co.jp
1965年にカナダに生まれたカサノバ氏は1991年にマクドナルドのカナダ社へ入社し、キャリアをスタートします。
その後、1997年にロシア・ウクライナマーケティングのシニアダイレクターに就任し、海外での要職を得ました。
それからというもの、一度は故郷カナダに戻りますが、2004年の日本を皮切りに、マレーシア、シンガポールで重要なポジションを歴任します。
その中でも、日本マクドナルド社で過ごした期間に頭角を現したサラ・カサノバ氏。マーケティング本部長時代には、「メガマック」「チキンタツタ」などのヒット商品を生み出し、日本マクドナルド社に貢献しました。
2013年、長年日本マクドナルド社の社長を務めた原田泳幸氏の後を受け、代表取締役社長兼CEOに就任したサラ・カサノバ氏は、当時、業績低迷が続く同社の再建を米国本社から任された形となりました。
社長に就任直後から、積極的に再建に向けて対策を講じたサラ・カサノバ氏の主な対策は3点で、カサノバ氏の得意分野であるマーケティングに偏らず、バランスの良い内容でした。
その内容は、以下の3点です。
1.メニューのリニューアル
出典:lowch.com
かつてメガマックなどの成功体験に基づき、真っ先に行ったのがメニューの拡充でした。
ヘルシー感を出したチキンフィレオや、海外で人気のマックトーストを投入します。
2.価格改定
出典:www.mag2.com
単品価格を上げ、セットメニューの価格を下げます。消費者をセットメニューに誘導し、客単価を上げることが目的でした。
ドリンクやポテトのように原価が安い商品の購入量を上げれば、収益にも大きく寄与すると考えたのです。
3.宅配事業への本格参入
出典:news.ko-zu.com
マックデリバリーは限定的な店舗での運営でしたが、これを拡張する計画です。
拡大するデリバリー需要を取り込む作戦でした。
サラ・カサノバ氏が語る、3つの対策の背景
出典:www.japantoday.com
このような対策案を講じた背景は、カサノバ氏のコメントに良く表れています。カサノバ氏の印象に残るコメントを見てみましょう。
1.国によって求められるサービスは違う
”スピード重視の米国に対して、日本はスピードよりも丁寧さや親切さを消費者が求めている。
サービスへの消費者の期待値も非常に高い”
2.ピープルが他社との差別化につながる
”マクドナルドは3本脚の椅子に例えられる。FC契約を結んだフランチャイジー、サプライヤー、そして我々カンパニーの協力があってこそ強いブランドとなる。
「1人では皆で力を合わせたほどのことはできない」。米マクドナルド創業者のレイ・クロックがこう語ったように、対話をし、関係性を強化しつつ、ビジネスを成長させていく”
3.フランチャイジー
”我々はあくまでも「ピープルビジネス」であり、ピープルがたまたまハンバーガーを売っているだけである。
ピープルが他社との差別化要素になるのは間違いない”
様々な文化の国々を渡り歩いたカサノバ氏の言葉には含蓄があります。また、一昔前のアメリカ企業が陥っていた“アメリカで成功したものは海外の何処でも成功する”というマインドセットは微塵も感じられません。
異物混入や消費期限切れ食材の使用などが重なり、日本マクドナルド社再建の道のりは平たんではありません。しかしサラ・カサノバ氏の哲学に沿って、会社を運営出来れば再建も不可能ではないでしょう。
サラ・カサノバ氏のこれから
出典:blog.esuteru.com
日本の消費者にとっては良い話ですが、米国などで人気が高いファーストフード店が次々に上陸しています。アメリカでは知らない人は居ないタコベルや、ニューヨークなどで人気が高いシェイク・シャックも2015年に日本出店を果たしました。
比較的リーズナブルなイメージのあるタコベルから、高級食材を使用してプレミアムバーガーのシェイク・シャックまで、選択肢が増えました。
両社に共通する点は、日本の市場を熟知するパートナーと組んでいる点です。タコベルは牛角を展開するアウラポート・ダイニング社と、シェイク・シャックはスターバックスを日本へ持ち込んだサザビーリーグ社と組んでいます。
競争が激化する中、日本マクドナルド社も斬新な“名前募集バーガー”や“チョコをかけるポテトフライ”なで対抗策を打ち出しています。
“名前募集バーガー”はサラ・カサノバ氏の得意なマーケティング活動が奏功して売上は上がっており、2016年1月の売上高は久しぶりに前年同月比を上回りました。
今年度は10億円の最終損益で黒字転換を目指している日本マクドナルド社。サラ・カサノバ氏の次の一手に期待がかかります。