中小企業庁の発表によると、新規事業を展開した企業のうち、71,3%の企業が事業に失敗したことが分かります。また、ユニクロの柳井正氏も新規事業の厳しさを”一勝九敗”と表現しています。
新規事業を成功させるということは大変難しいことです。良いアイデア・良い製品を作れば、必ず成功するわけではありません。ニーズがどこにあるのか把握しきれずうまく売り出せなかったり、売れると見込んだサービスや製品が、実際はあまりニーズがなく事業が失敗したりするケースはよくあります。
そんなスタートアップの失敗パターンを解消する方法として今、「顧客開発モデル」が注目されています。
今回は顧客開発モデルの概要から、成功率をあげるカラクリまで紹介していきます。
Contents
顧客開発モデルとは
そもそも顧客開発モデルとは、新規事業の開発方法のことで、数々のスタートアップ企業に従事したスティーブン・G・ブランク氏が『アントレプレナーの教科書』内で提唱したことが始まりです。
顧客開発モデルのポイントは、製品・サービスの開発と顧客・ビジネスモデルの開発・検証を同時に行うという点にあります。先ほどあげたスタートアップの失敗パターンは、新規の製品やサービスを作るのに莫大なリソース(ヒト・カネ・モノ)を費やし世に出すため、この時点ですでにリソースが尽きており、想定していたニーズがなかった時に製品の改良ができず行き詰まり、新規事業が頓挫するというものです。
顧客開発モデルはこれを防ぐために、製品・サービスの開発と同時進行で、本当にニーズがあるのか・どこにニーズがあるのかなどを検証していきます。ほしいと思っている人がいない製品やサービスを作ることを防ぐ手法、それこそが顧客開発モデルなのです。
顧客開発モデルの4つのステップ
顧客開発モデルには顧客発見・顧客実証・顧客開拓・組織構築の四つのステップがあります。このステップを反復しながら、製品開発と平行して顧客を探すことで新規事業の成功に繋げます。
この章では四つのステップの具体的な方法についてみていきます。
顧客発見
顧客発見はサービスや製品のコンセプト段階で行うものです。顧客発見とは、今から作ろうとしているサービス・製品の想定される顧客のところへ出向き、インタビューやアンケートを通してニーズの有無だけではなく、顧客自体がどういう人か探ることまでを指します。その中で、人が持っている不満や悩みを聞き出し、製品開発に活かします。
顧客実証
顧客実証は、サービス・製品の開発が顧客発見より一つ進んだ段階で行います。具体的には、試作品を作って、いくらなら買いますかなどのアンケートを行い検証します。この時、莫大なリソースを使わないためにも、機能は最低限とすることがポイントです。顧客の有無の確認や営業プロセスの確立が検証のゴールです。
顧客発見や顧客実証は探索ステップと言われていて、ここをクリアすることで事業化に進めます。単に順番にステップを踏めばいいわけではなく、このステップを何度も繰り返すことが重要です。検証を行う前に仮説をたて、仮説通りにいかなかった場合はその原因を探ることでニーズにたどり着きやすくなります。
顧客開拓
顧客開拓は、製品・サービスのテスト段階で行います。このステップは、大量生産に向けての準備段階とも言えます。具体的には、製品・サービスを効率的かつ効果的に顧客に広める方法を模索します。見つかった顧客に対して、どう売るか仮説・検証を行うということです。
ここを突破するといよいよ製品・サービスのリリースです。
組織構築
組織形成は、販売の段階で行います。組織やチームを作り事業を拡大させることがこのステップの目的です。ニーズを持っている顧客だけではなく、自分自身のニーズにまだ気づけていない顧客にまで届くようにします。いわゆる”万人受け”を目指すのです。
顧客開拓と組織構築は実行ステップと呼ばれ、探索ステップほど反復する必要はありません。
顧客開発モデルが成功率を高めるわけ
これまで、顧客開発モデルは新規事業の成功率を高めるという話をしてきました。ではここで、顧客開発モデルが成功率を高めるわけをみていきましょう。
アーリーアダプター
新規事業を成功させるポイントとして、アーリーアダプターに対象を絞るというものがあります。
アーリーアダプターとは、販売されている製品やサービスを比較的早い段階で受け入れる人々のことです。流行に敏感で、質や利益を自ら情報収集して見極め、新しいものを取り入れるのです。最近ではインスタグラマーやユーチューバーなどのインフルエンサーもこれにあたります。
顧客開発モデルでは原則として、顧客開拓までのステップはターゲットをアーリーアダプターに絞り、組織構築のステップでターゲットを拡大していきます。
アーリーアダプターにターゲットを限定するメリットは2つあります。
1つ目のメリットはリソースを抑えられることです。先ほど、試作品を作るとき莫大なリソースを使わないようにするために機能は最低限でいいと述べました。アーリーアダプターは、切実なニーズを持っていると言われています。つまり、最低限の機能でも購入してくれるということです。逆に、特に強いニーズがない人は大きな付加価値がなければ受け入れません。
顧客発見と顧客実証は反復する必要があります。そのたびに、大きな付加価値をつけていては、リソースが持ちません。そのため、最低限の機能だけでも購入してくれるアーリーアダプターにターゲットを絞り込むことで、リソースが抑えられるのです。リソースを抑えると失敗したときのリスクが小さくて済み、繰り返し挑戦できるため、成功率が高まるというわけです。
2つ目のメリットは、革新的な製品やアイデアを万人に受け入れてもらえることです。革新的なアイデアや製品は導入時に万人受けしないため、流行の火付け役であり、新しいものを好んで受け入れるアーリーアダプターに対象を絞ることで広い市場へと導入しやすくなるのです。
今多くの人が利用しているAirPodsも発売当初は「うどんが耳から出ているみたい」とSNS上を賑わせていました。ただ、有名人などが使い始めると徐々に世間にも浸透し、今では多くの人がAirPodsを使用しています。ここでいうAirPodsのアーリーアダプターは最初に使い始めた有名人ということです。
アーリーアダプターだけでその事業が黒字化すれば、巨大市場を目指せる事業へと昇格させます。このように革新的なアイデアが受け入れられやすくなることは成功率を高められることにつながります。
以上の理由から、アーリーアダプターにターゲットを絞り込むことは成功率を高めることにつながるといえます。
リーンスタートアップ
顧客開発モデルの各ステップで仮説・検証を行う必要があると前述しました。リーンスタートアップとは仮説・検証を効率的に行うノウハウです。つまり、リーンスタートアップを知った上で、仮説・検証を行うと新規事業の成功率が高まるということです。
リーンスタートアップは構築・計測・学習のサイクルで進めます。顧客の不満やそれに対する解決方法の仮説をたて、アイデアをだします(構築)。次に、顧客の反応や満足度などを計測(計測)、計測の結果から具体的な解決策を見出し、実践します(学習)。そして結果が出なければまた、別の仮説をたて検証していくのです。このサイクルを繰り返すことで製品開発を進めながら品質も改善することができるのです。
このサイクルを実践しながら四つのステップを進めていくことで、早い段階で改善点を見つけることができます。
顧客開発モデルが新規事業成功へのカギ
今回は顧客開発モデルについて説明していきました。各ステップを、ポイントを踏まえ、仮説・検証をおこないながら反復することで、スタートアップで陥りがちなリリースをしてからニーズがなかったことに気づくという失敗パターンを回避することが可能です。
顧客開発モデルは失敗があることを前提として作られており、小さな失敗を繰り返すことで大きな成果を上げることができる仕組みとなっています。成功への道は直線ではありません。さまざまな失敗、課題にぶつかってそれを乗り越えることで成功へとつながります。みなさんも新規事業を立ち上げる際には、顧客開発モデルを利用してみてはいかがでしょうか。