今回のインタビューは、株式会社I.S.T、阪根利子社長に、「社長就任までの経緯」や「アメリカ現地でのカルチャーショック」についてお話を伺いました。
2016年11月に2代目社長に就任
そもそもI.S.Tは、加工技術や材料技術など、技術を売る会社を立ち上げるつもりで創業したと聞いています。
父がやってきたことが、全て満足いく形で前に進んでいくようになってきたこと、そして父が育ててきた研究開発の種が育ち、
一旦きりがついたことから、私が2代目の社長として引き継ぐことになりました。
アメリカ進出の経緯
I.S.Tで生産しているプリンターやレーザープリンターのキーパーツがあり、その材料をアメリカのデュポン社から購入していました。
ところが、その材料の部門を、アメリカのデュポンから「買わないか」とお声掛けいただき、それを父が買うことを決めました。
日本に工場も会社もあるので、自分がやるわけにはいかない。
そこで、「お前、アメリカ行けへんか」と軽い感じで聞いてきたことがきっかけで、我々のアメリカの会社に勤めるという形で、渡米しました。
事業を展開する中で、お客さんから「アメリカに事業形態を一部移すので、アメリカでもプリンターパーツを生産してほしい」とリクエストがあり、
ニュージャージー州の工場で一部生産することになりました。
実際に日本の生産事業をアメリカに持っていくとマネジメントだけではなくなります。
現地法人でないと、ものを買って、作って、出すという作業が、税務上うまくいかなくなったので、そこではじめてアメリカの会社をつくることになりました。
日本ではありえない出来事を経験
「知らぬが仏」とはよく言ったもので、知識も何もなかったので、怖いという感覚はなかったです。
自分が分かっているのは「何も知らない」ということだけで、今思うとそれはありがたかったと思います。
というのも、ふたを開けてみると、日本の常識では考えられないことがいっぱい起こりました。
雇用については委託業者がいないため、自分たちでやらなくてはいけません。そこで、かなりびっくりする出来事がありました(笑)
雇用の法律自体も日本と違いますし、雇われるほうの常識も違います。
「あれを言ったらいけない、これを言ったらいけない」など、休暇などのベネフィットのルールもあります。
日本だとビザなどいちいち確認しませんし、入社時にドラッグテストもしません。
ですが、「そういうこともやらないと後で困る」ということを、徐々に勉強しました。
私が一番びっくりしたエピソードがあります。
パスポート、ビザあるいは市民権を必ず面接時に明示してもらいますが、写真なので分かるといえば分かりますが、分からないといえば分かりません。
工場のワーカーとして雇ったある女性の話ですが、彼女はとても真面目で、ちゃんと出勤し、真面目な勤務状態でした。
ところがある日、突然女性から電話があり
「そこにマチルダいる?」
「マチルダ?いるけど」
「それはマチルダじゃないの!」
「え?」
という話になりまして。
「マチルダは私なの!」と言われて、なんのことかさっぱり分かりませんでした。
マチルダを呼んで「あなたはマチルダじゃないの?」と聞いたら、
「私がマチルダよ」と。どういうことかと聞くと、
「彼女が嘘をついてる。彼女は私のルームメイトなの」
と言うので、
「じゃ、大丈夫なのね」
「大丈夫」となったのですが、次の日、彼女は来ませんでした。
アイデンティティ・セフト、人のアイデンティティを使う。
そういうことが起こるなんて考えていなかったので、こんな面倒なことをしなくてはならないのかと思っていました。
しかし、実際に起こると「これはやばい」と思いまして。
向こうにはマイナンバーのようなものがあるので、そういうものを全部「会社がチェックしました」という履歴を残さないといけません。
そういう細かいファイリングの常識すら違ってくるので、ひとつひとつ体験しながら学んでいくという中での立ち上げでした。