IPOをする際には、オーナー家の持ち分をどうするか、安定株主をどう作るか、個人株主をどう増やすか、従業員持株会やストックオプションをどうするかなど、資本政策は非常に重要な位置づけを占めます。

資本政策の一つとして、新株発行による増資という手続きがありますが、今回はその中でも「第三者割当増資」という手続きのうち、IPO志向の経営者が知っておくべき事項について、記載したいと思います。

 

第三者割当増資とは?

まず、第三者割当増資とは、会社の資金調達方法の一つであり、株主であるか否かを問わず、特定の第三者に新株を引き受ける権利を与える増資のことです。株主割当て増資は既存株主だけ、公募増資は、広く増資を募るという点で、第三者割当増資とは異なります。

このように第三者割当増資は、特定の第三者にのみ新株を引き受ける権利を割り当てるものですから、資金調達の目的だけでなく、他社との資本提携目的や、安定株主の確保、または敵対的買収防止のために会社と親しい第三者に付与するなど、資金調達以外の目的を含むものとして行われる場合がほとんどです。

 

第三者割当増資を行う際の投資契約での注意点

さて、このような第三者割当増資を行う場合、ベンチャーキャピタル(以下、「VC」といいます)等と投資契約をすでに締結されている経営者は、何を心配するべきでしょうか?以下、VCとの投資契約の中で、実務上、よく問題になる事項について、述べていきます。

例えば、簡略化のために資本剰余金等の話は無視し、株式の価値も簡略化して、以下のような会社があるとして、以下解説します。

株主は創業者と、VC2社の3社です。
名称未設定

 

(1)出資比率の維持条項

一番は、出資比率の維持条項です。

甲社長は、乙VCと相談し、今後の投資のための資金調達と安定株主確保のため、X社の大口取引先のY社に2,000株、2,000円(1株=1円)で第三者割当増資をすることにしました。
しかし、丙VCの投資契約に下記のような条項が入っているのを見落としてしまっていました。

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第●条(追加出資ならびに持株比率維持権)

1.丙VCがX社株式を保有する限り、X社が募集株式等の発行をおこなう場合、丙VCは、X社の発行済株式数および潜在的株式数に対する丙VCの持株比率をそれぞれ維持するために、X社株式の割当てを優先して受ける権利を有する。

(以下、略)

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簡単にいうと、X社がY社に第三者割当て増資をする場合は、丙VCの持分比率が下がらないように、丙VCに優先して、株式を割り当てる必要があるわけです

本来なら、Y社への第三者割当で下記左図のようにしたかったのですが、15%という丙VCの持分比率を維持するために右図のようにしないといけないわけです。株式数が変化しますね。特に、創業者の甲社長の持分が50%を下回ってしまいます

x

新株発行は、原則として株主総会の特別決議(議決権をもつ株主の過半数を定足数とし、その3分の2以上の賛成)なので、甲社長は乙VCとだけ話をして、実行しようとしましたが、会社法上は合法でも、丙VCとの投資契約に抵触し、思うようにいかない場合があります。

IPO志向の経営者としては、出資比率の維持条項に注意しましょう。

 

(2)事前承認事項、事前通知事項

また、第三者割当増資のために、総会で決議をしたり、そもそも株主総会を招集するためには取締役会で、招集の決議が必要ですが、その場合に、持分割合に関係なく、投資契約で事前承認や、事前通知事項が定められている場合があります。
先述の事例で行くと、丙VCに相談せずに第三者割当の決議をしようとしたX社の甲社長の行為は、本条文にも抵触してしまいますね。

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第●条(事前承認事項)

X社が、次のいずれかの事項を決定しようとする場合、X社は、VCに対し、可及的速やかにその事実および内容を通知の上、その事前承認を得るものとする。

(1)株主総会の招集

(2)新株の発行

(3)株主の異動

(以下、略)

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(3)種類株主への対応

VCによっては、議決権のない種類株主として出資する場合があります。種類株とは、「普通株式とは権利内容が異なる株式」のことです。

その場合、種類株主に損害を及ぼす恐れのない一般的な議案に関しては、VCは通常の株主総会で議決権のないオブザーバーにしか過ぎないのですが、第三者割当増資が種類株式である場合は、原則として種類株主総会を開催して、通常の株主総会と同様に特別決議が必要となります。

この辺りも、会社法とあわせて投資契約で条項が定まっていますので、注意が必要です。

 

まとめ

以上のとおり、投資契約と会社法との手続きとの間で相違が生じる可能性のある事項として、
①持分維持条項
②事前承認・通知事項
③種類株主への対応
と3つのポイントを説明しました。

投資契約の締結は、VCから投資してもらう必須条件でもある一方で、一度締結すると、実務上、再修正は困難です。

第三者割当増資を考えている経営者のみなさんは、投資契約を締結済みであれば、必ず事前に各条項をチェックし、VCとよくコミュニケーションをとって第三者割り当ての対応をすることが重要です。未締結であれば、第三者割当増資の予定について、きちんと事前にすり合わせや、必要な手続きを確認することが大切だと、把握しておきましょう。

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