電子書籍Koboを作った男Michael Serbinis氏
日本でも電子ブックリーダーを使用している人々を見かけるようになりましたが、電子書籍先進国のアメリカには遅れを取っているイメージがあります。しかし統計を見ると、電子ブックリーダーが誕生したばかりの頃はその傾向はあったものの、現在の普及率に日米で大差はないようです。
アメリカの書籍産業の市場規模は2013年度で約US$270億(約2兆8千億万円)と言われています。この中で電子書籍関連の売り上げは約US$ 30億(約3,150億円)規模で、全体の約10%を占めています。
一方、日本の書籍産業の市場規模は約9,000億円で、その中で電子書籍関連は約930億円を占めています(2013年度)。比率はアメリカと同じく約10%で、必ずしも日本の電子書籍の浸透度は低い訳ではありません。
また電子書籍というと真っ先にアマゾンのキンドルを思い浮かべる方も多いと思います。確かに電子ブックリーダーのシェアはキンドルが50%を超えていますが、意外にも電子書籍ストア(電子書籍を購読する先)では、楽天Koboとキンドルのシェアは拮抗しています(両社とも6%でトップを争っている)。
過去、キンドルの寡占時代に一石を投じたKoboですが、もともとはカナダの会社で、2012年に楽天が買収したものでした。
そのKoboの創業者が、健康関連の新会社を起業して話題を呼んでいます。Michael Serbinis氏が起業したLeague社をご紹介いたします。
出典:mobihealthnews.com
数々の会社を起業して高値で売却
カナダのオンタリオ州で育ったSerbinis氏は、高校生時代から科学・テクノロジー分野で秀でていました。高校生時代、Serbinis氏が発明した超電導体駆動システムで、インテル社が主催する国際科学エンジニア大会で金賞を受賞します。
その後、クイーンズ大学、トロント大学を経て、NASAやインテルで研究を続けます。その後、Serbinis氏はDocSpace社というクラウドストレージ会社を起業します。会社は順調に大きくなり、2000年にUS$5.68億(約600億円)で他社へ売却します。
その後、電子書籍リーダーを製造・販売するKobo社を2009年に共同で創業し、CEOに就任します。それまで電子書籍リーダーはキンドルの寡占状態で、他の選択肢を望んでいたユーザーのニーズにKoboはミートしました。2010年には約US$1.1億(約115億円)まで売上を伸ばし、キンドルの唯一の競合相手となります。そしてSerbinis氏は、2012年にKobo社を楽天へ約US$3.15億(約330億円)で売却します。
出典:league.com
コンセプトは病気を予防して、医療費を削減する
Kobo社を売却した後、Serbinis氏は休暇を楽しみます。休暇中、Serbinis氏は外科医で起業家のPatrick Soon-Shiong氏と話す機会がありました。Soon-Shiong氏は、医者は病気を未然に防ぐことにもっと力を入れるべきだと、Serbinis氏に語り掛けたそうです。
アメリカとカナダの医療費は約US$4兆(約420兆円)にも上り、次の10年でそれが倍になるという予測もあります。Serbinis氏はPatrick Soon-Shiong氏との会話を通して、病気予防に力を入れれば医療費は半分程度まで減少すると考えます。
本拠地トロントに戻ったSerbinis氏は、次の10年で病気を予防し、医療費を削減することを目的とする会社を起業します。2014年にLeague社を創業したSerbinis氏とそのチームは、ヘルス系アプリを発表します。
League社のアプリの最大の特徴は、このアプリで医療・ヘルス関係のほぼ全ての活動が出来ることです。自身の医療データの蓄積は勿論、自分が希望する病院を検索して予約をしたり、医療を受けた場合の凡その請求額を事前に知ることが出来たりします。
また、その対象は病院や歯科医に限らず、栄養士からアドバイスを受けたり、マッサージやカイロプラクティックにも対応します。このアプリ1つで総合的に自分の体調を一元管理出来、医師やヘルス関係者の受診結果を見ることにより、病気予防につなげることが出来ます。
さらに従業員の福利厚生にLeague社のシステムを、主に小規模事業主に売り込んでいます。医療費が高いアメリカでは、医療関係の福利厚生がしっかりしている会社の人気が高くなっています。League社のシステムを使うと従業員は医療のみならず、病気予防という名目でヨガのクラスやダイエット料理教室への参加など、幅広いプログラムを受けることが出来ます。
病気予防活動による医療費圧縮の取り組みは、先進国では提唱されるようになりましたが、具体的な取り組みは余り進んでいないように思われます。
常に時代の一歩先を行き、成功を収めてきたSerbinis氏に注目が集まります。