クラフトビール界のヒロイン誕生
クラフトビールと聞くと、真っ先にドイツやベルギーなどの欧州地域を思い浮かべる方も多いと思います。一方、アメリカのビールというと、バドワイザーやミラーなどの大衆ビールが幅を利かせているイメージがありますが、実はアメリカには数えきれないほどのクラフトビールブランドがあり、人気も高まっています。
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アメリカのアルコール市場全体を見渡すと、ワインやスピッツ類に押されてシェアが低迷しているビール業界ですが、唯一成長をしているのが、クラフトビールのカテゴリーです。
ビール全体の約15%のシェアを占めるまでに成長したクラフトビールは、味が良いことから消費者に好まれるだけではなく、通常のビールと比較して高い収益性が期待出来ることから、小売店からの評価も高く、市場に急速に浸透しています。
米国国内だけではなく輸出も好調で、アジア太平洋州向けのクラフトビールの2015年出荷は、前年比約75%の伸びを記録しています。
このような盛況なアメリカクラフトビール界で、注目を集めている若い女性起業家がいます。Meg Gill氏です。
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クラフトビール史上最も若い女性醸造家
ヴァージニア州の小さな町で生まれたGill氏は、その町で初めてアイビーリーグの名門、イェール大学に進学した女性でした。イェール進学後、Gill氏が一番注力したのが水泳でした。自由形の選手であったGill氏は、リレーの最終走者としてアイビーリーグ記録を打ち立てるほどのトップスイマーとして活躍します。
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大学卒業を間近に控えたGill氏はコロラド州を旅している最中に、たまたま立ち寄ったOskar Blues Breweryで醸造所のオーナーと話す機会を得ます。そのオーナーにクラフトビールの将来性を熱く語られたGill氏は、このOskar Blues Breweryの営業担当として就職します。イェール大学の卒業生が余り選ばない道を選択したGill氏には、その理由がありました。
クラフトビールの将来性を感じたのは間違いがありませんでしたが、Oskar Blues Brewery社ならば、働きながら水泳選手としてのキャリアも続けられたからです。
その当時を振り返りGill氏は、“まずは水泳。オリンピックに出場することを一番に考えていた”と言います。
しかし突然の悲劇が訪れます。交通事故で大怪我をしたGill氏は、水泳選手の道を諦めます。彼女に残ったのはクラフトビールのみでした。
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怪我から復帰したGills氏は、2009年に低迷するサンフランシスコのクラフトビールメーカー、Speakeasy社へ転職します。Gill氏は販売エリアを縮小し、地元にフォーカスした販売戦略で、Speakeasy社を立て直します。
その過程でGill氏はその後の彼女の人生を大きく左右する人物に出会います。有名なバーのオーナーTony Yanow氏と出会ったGill氏は、2011年に共同でGolden Road Brewingを起業します。この時点で、Gill氏は世界で最も若い女性ビール醸造家となったのでした。
クラフトビール成功の秘訣は、本拠地の選択と地元密着型
Gill氏とYanow氏はGolden Road Brewing社をロサンゼルスに設立することにしました。
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この決断が今日の成功につながります。当時のLAはクラフトビール不毛地帯でした。LAでビールを醸造している会社は、皆無でした。実際、Golden Road Brewing社が生産を始めた際には、LAで唯一の醸造所となります。
実は、全米でも有数の商圏であるLAに、地元のクラフトビールが無いということには、誰も気がついていませんでした。これに気が付いたGill氏は地元のクラフトビールである点をアピールして、“地元にフレッシュなビールをお届けする”をモットーに会社を成長させます。現在では6種類のクラフトビールのラインナップを揃え、季節限定商品も7つ開発しています。自社工場に隣接するパブを含め、複数の直営パブも人気を博しています。
地元LAで存在感を増すGolden Road Brewing社を率いるGill氏は、2014年、Forbesが毎年選ぶ、“30 Under 30 (30歳以下の注目30人)”に選出されました。フード部門で選ばれたGill氏にForbes社は“世界で最も若い女性ビール醸造家”という称号を与えました。
世界一のビールメーカーに買収
順調に販売を増加させるGolden Road Brewing社は、大手ビールメーカーからも注目を集めます。
2015年、世界一のビールメーカー、アンハイザー・ブッシュ・インベブ社がGolden Road Brewing社の買収を打診します。Gill氏とYanow氏はこの買収話に合意します。
世界のビールシェア25%を誇るアンハイザー・ブッシュ・インベブ社の傘下に入ったGolden Road Brewing社は、その可能性をさらに伸ばすことが出来そうです。今後もGill氏の活躍に注目です。