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ボウリング・レーン-“キャズム”と“トルネード”の間の時間
キャズムは、新製品に対する需要が伸びない“溝”のことでした。多くのマーケターがこのキャズムの存在を知っていることでしょう。
トルネードは、逆に新製品に対する需要が急激に増加する現象のことでした。マーケターの中でも勉強熱心な方はちゃんと知っていることでしょう。
さて、では今回紹介するのは、キャズム、トルネードと同じく、ジェフリー・ムーアによって提唱された「ボウリング・レーン」です。米国では教科書にもなっている『トルネード』で述べられているマーケティングの時期の1つです。
ボウリング・レーンを知って、広い知識を有したマーケター集団に仲間入りしましょう。
ボウリング・レーンとは?
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ボウリング・レーンは、キャズム期とトルネード期の中間に位置する時期のことを指します。なぜこんな名前が付けられているかというと、この時期のマーケティングはボウリングのピンを倒すように行うことが推奨されているからです。
ゆっくりと解説していきます。
まず、新製品がキャズムを超えたからといって、大きな市場にいきなり参入するのは危険であるということを意識しておきましょう。いまだに実利主義者たちは、前のパラダイムにこだわっている可能性が高いからです。
そんな状況で無理な市場進出をしてしますと、余計なコストがかかってしまいます。結果、この後起こるトルネードで置いて行かれてしまうのです。
では、この時期は何をするべきなのか?
一言で言ってしますと、「ニッチ市場の1番を目指す」ことです。さらに言えば「いくつものニッチ市場で1番になる」ことを目指すのです。
ニッチ市場の顧客は、メインの大きな市場の実利主義者たちよりも前のパラダイムへのこだわりが弱いことが多く、あなたの新製品に乗り換えてくれる可能性がより高いのです。
そして、ボウリングのピンがこのニッチ市場なのです。
まずは、1本目のニッチ市場を制覇します。そのまま連鎖的に次のニッチ市場を制覇していくのです。
こうすることで、トルネードがやってきたときに十分なマーケティング戦略をとれるだけのシェアと資金、味方を得ることができるようになります。
目指すべきニッチ市場の3つの要件
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ボウリング・レーンにおいて重要なのは、連鎖的にニッチ市場を制覇していくことです。したがって、どこのニッチ市場を狙っていくのかを熟考しなければなりません。
そのための要件を3つ挙げましょう。
要件➀ 購入動機に満ちている
当然ですが、顧客の購入動機が十分になければ、市場のトップに躍り出ることは難しいでしょう。現在の時点で、そのニッチ市場に共通する何らかの不満、課題が存在していることが1つ目の要件です。
要件➁ 競合他社によって占領されていない
すでに競合によってマーケット・リーダーの地位が確立されている場合は参入すべきではありません。1つの判断基準としては、参入コストが現在の売上高を超える場合は、参入を見送るほうが賢明でしょう。
あくまで、マーケット・リーダーの地位を低コストでつかんでいくことがボウリング・レーンにおける目標なのです。
要件③ 連鎖反応が期待できる
参入市場の選択基準の1つに「営業のかけやすさ」というものがあると思います。しかし、ボウリング・レーンではそれよりも「連鎖反応の起こりやすさ」を重視する必要があるのです。
例えば、顧客の一部が共通している、プロセス的につながりがあるなどして、他のニッチ市場との間に情報コミュニケーションがあることが好ましいです。
最近の事例からAirbnbを取り上げてみましょう。
現在の最大民泊プラットフォームAirbnbの最初の市場は「ユーザー同士が部屋の貸し借りをする掲示板」でした。Airbnbはその市場にアクセスし、かっさらったのです。
つまりはAirbnb最初の顧客はそもそも“民泊”を利用していた人たちでした。そこから、次は“民泊”は利用していなかったが安い宿泊を求める市場に進みました。
また、オリンピックの時に、この顧客たちを介してさらなる顧客層も手に入れていきました。今では、旅行における宿泊以外のプロセスにも参入し始めています。
このように、まずは競合のいないニッチ市場を制覇し、そこから連鎖的に市場を拡大していく、というのがボウリング・レーンにおけるマーケティングプロセスです。
ボウリング・レーンの効果
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ボウリング・レーンで適切な戦略をとることによって得られるメリットは2つあります。
1つは目先の利益を得られることです。ニッチ市場のマーケット・リーダーになることは安定収入の獲得につながります。
もう1つは、トルネード期に備えることができることです。トルネード期の生産に耐えられるだけの資金、複数の市場にまたがる評判などによって、トルネードのなかで戦えるだけの力を身に付けることがあるのです。
ボウリング・レーンでは、無理な市場参入をせず、しかし力は着実につけていく、そんな戦略が求められています。
ボウリング・レーンを学んで、上級マーケターを目指せ。
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ボウリング・レーンというマーケティング用語を聞く機会はなかなかないでしょう。キャズムに比べると、トルネード、ボウリング・レーンが実際に注目されるケースは少ないようにも感じます。
しかしながら、マーケターとしてここで押さえておくべきことは、「時期によってマーケティング戦略は180度変わることもあり、そこでの選択が企業の運命を変える」ことがあるのだという論理です。
さまざまなマーケティング理論・事例を学び、そこから抽象化した論理を得ることが上級マーケターへの道です。