「地方経済にどれだけ影響をもたらせたかを指標にした"地方創生ファンド"

嶋内:本日は、地方創生と事業承継ファンドについて、フューチャーベンチャーキャピタルの松本さんにお話をお伺いします。松本さん、よろしくお願いいたします。

 

松本:よろしくお願いします。

 

嶋内:今回のテーマは「地方創生ファンド」で、ご著書も書店で目にすることが多く、注目の高さを感じているんですが、従来のファンドと地方創生ファンドがどのように違うのかお伺いしてもよろしいでしょうか?

 

松本:ファンドはたくさんありますが、いわゆるベンチャーキャピタルが運営するベンチャーファンドというのは、基本的にはIPOを目指す企業に投資し、投資先がIPOすれば大きなキャピタルゲインを得る。リターンを目的としたファンドが一般的なベンチャーファンドです。

 

地方創生ファンドは、リターンも当然ながら大事な指標ではありますが、それ以上に「地域経済にどれだけ、投資先が成長することで貢献できたか」、つまり取引高がどれだけ増えたか、もしくは、雇用がどれだけ伸びたか、もしくは、税収がどれだけ伸びたか、そういった指標を見ています。

 

そういう意味で、本当に「地方経済にどれだけ影響をもたらせたか」を指標にするファンドを、我々は地方創生ファンドと呼んでいます。

地方の良い会社上場する」ではなかった

嶋内:こういう想いやコンセプトに至った背景についてお伺いしてもよろしいでしょうか?

 

松本:我々は、実はリターンを狙うベンチャーファンドを設立から3年後、2001年から各地方で展開していました。一番初めは石川県。石川県で上場会社をつくりたいという目的で、ベンチャーファンドを我々が作り、地域に事務所を出し、地域密着でやっていました。それが、次は岩手県、三重県、というかたちで、様々な地方に出させていただきました。

 

やってみてわかったことは、手前味噌ではありますが、地方の良い会社を、本当に早いタイミングから見つけて投資し、育ててきた自負はあるんですが、「地方の良い会社=上場する」ではなかったんです。もっと言うと、地方の良い会社が上場して、良い値段・良いリターンがつくかというと、これもイコールじゃないことに気づきました。

 

これはちょっと語弊があるかもしれませんが、上場して良い値段がつく会社は、そのときの流行りというか、今であればフィンテックやAI、ロボットだったり、そのときそのときに注目されるテーマの企業が上場するとものすごく高い株価がついています。そうではなく、例えば地域でスポーツ経営をして、いろんなフランチャイズもしながら、事業を拡大してきた会社が、上場したときに高い株価がつくかというと、全然つかないんですね。

 

なので、本当に地方で良い会社を育てることと、IPOだけで投資回収をすること、ここに大きなギャップがあることに気づきまして。そうであれば、IPOしなくても、企業がきちんと売上利益を伸ばせば投資回収できる仕組みを作れないか?と、リーマンショック後に悶々と考えまして。それで今のスキームを作りました。

 

今回の地方創生ファンドは、このスキームで投資をさせていただいているので、上場を目指さなくても、ちゃんと企業が成長すれば投資回収できるモデルでやっています。

 

嶋内:なるほど。地方に根ざして色んな事業をして売上利益が上がったとしても、今の傾向ですと、コングロマリットディスカウントというか、何をしているかわからなくなり、結果的に倍率が下がってしまう傾向にありますよね。

 

松本:もしくは、そもそもIPOを目指す上で、100億円以上のマーケットを、事業として持たないと上場できないんですが、地域で生まれたビジネスで、100億のマーケットがある事業がどれだけあるのか?というと、多くないんですよね。

 

チャレンジする方はたくさんいらっしゃって、本当に身の回りの課題を解決するビジネスモデルはできているんですが、マーケットがそれほど大きくないので、そもそも上場できないと。そういう事業の会社に対して、まったくリスクマネーが供給されていないんです。

 

ここをすごく問題視していました。「融資もできない、投資もされない。じゃあどうやって成長するんですか?」というところに対して、こういったファンドをつくれば、もっとたくさん挑戦する方々が生まれるんじゃないかと思っています。

 

嶋内:なるほど。それを特定の個社でリスクを見るとわかりにくいんですけれども、相対的、全体で見るとリスクマネーも、地域全体の経済に寄与する可能性が高まっていって、売上・税収・雇用という点においてきちんとリターンが取れる可能性が高まる。こんな考えでよろしいですか?

 

松本:そうですね。私は地域に、いわゆる種まきも必要じゃないかと思っていまして。どうしてもIPOを目指す会社、もしくはIPOできる会社に投資するのは、もう既に勢いがあるというか、成長性がある会社を刈り取っていくような、狩猟型の投資のイメージがあるんです。

 

そうではなくて、一番初め、本当にそういったサービスができるかどうかも含めて、チャレンジするための種まきみたいな投資をしたいと思っています。

 

嶋内:経験なさって気づいたことということですね。

 

松本:そうですね。

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