今回はさくらインターネット株式会社、代表取締役社長 田中邦裕氏に「事業内容」と「IPOのプロセス」、「関西に本社を置く理由」などについて、嶋内(アントレプレナーファクトリー代表)が伺いました。
【経歴】
1978年、大阪府生まれ。
1996年に国立舞鶴工業高等専門学校在学中にさくらインターネットを創業。
当時国内ではまだ珍しかった共有ホスティングサービス(さくらウェブ)を開始。
高専卒業後に有限会社インフォレストを設立し事業を継承、代表取締役へ就任。
1999年にはさくらインターネット株式会社を設立し、月額129円から始められる
低価格レンタルサーバ「さくらのレンタルサーバ」の開発に自ら関わる。
その後、最高執行責任者などを歴任し、2008年より現職。

さくらインターネット株式会社の事業内容


-最初に会社と事業の概要を教えてください。
 
当社は、1996年に創業した、インターネットのインフラを提供する会社です。
私が舞鶴高専在学中4年生のときに創業し、その2年後、大阪に出てきて有限会社化をしました。
現在の法人格、さくらインターネット株式会社は1999年に創業しました。
その後2005年に東証マザーズに上場し、その後2011年には石狩のデータセンターを設立しています。
 
事業ドメインとしては、インターネットのインフラを提供する会社です。
具体的にはデータセンターといわれるサーバーを収納するための設備の建設や運用、その上に付帯するサービスの提供が本業です。ただデータセンターと言っても様々な形態があり、不動産のように場所だけを貸すコロケーションサービス、またはハウジングサービスといわれるサービスもあります。
あとはその上にのっているサーバーの提供、運用保守のご提供、そういったものを内包するホスティングというサービスもあります。
多くのデータセンター専用会社の場合は、どちらかというとコロケーション・ハウジングサービスが中心になっていますが、当社の場合で特徴的なのは、場所貸しよりもホスティングと言われる運用保守などの付加価値の高いビジネスを中心にしていることです。
近年の売上の推移を見ると、2007年頃には半々だったコロケーションとホスティングの比率が、現在はコロケーション30%に対してホスティングが60%を超えている状況になっています。
ですので当社では、不動産のような場所貸しだけでは資本力は持たないという事もありますし、逆にホスティングのような付加価値の高いビジネスの場合は、差別化がしやすいといった事から当社においてはホスティング、最近はクラウドとも言われますが、この事業分野に注力し売上を伸ばしている、そのような会社です。
 
-今後の展開としては、事業に絡んだサーバーやホスティングのサービスになっていくのでしょうか。
 
ハウジング・コロケーションという単純な場所貸しというのに関してはなかなかこの先は厳しいのではないかと考えています。どうしても資本集約的なビジネスになるのでベンチャーにはそぐわない側面もあります。
しかしながら、サーバーの利用者というのは非常に伸びていますし、国内においては珍しい高成長の分野でもあるのでやはりこれからもこの分野は強化していきたいと考えています。
 
-どうして舞鶴で事業をやりたいと思ったのか、そこからどんなタイミングでIPOを意識されたのかをお伺いできますか。
 
元々小さい頃からもの作りが好きだった人間でした。
ロボットコンテストなどを小さい頃からよく見ていたのですが、その中で母親からも高専に行ったらどうかというのは小学校の頃から言われていました。
そういった事で普通の人とは違った事ができるというのに夢を膨らませて舞鶴高専に入学しました。
残念ながらもの作りよりもソフトウェア・ネットワークの方へ興味を持ってしまって、自分でサーバーを立ち上げ、そのサーバーの管理をするというのが趣味のような形で学生生活を送っていました。
もの作りもやってはいたのですが、余った時間全てサーバー管理をしているうちに、これはビジネスになるのではないかとなり、いつしか無償でお貸ししていたサービスを有償にするにあたってさくらインターネットという称号をつけて始めました。
その後法人化を1998年にしますが、やはり法人化して会社を大きくしていくという事になると、当時ドットコムバブルが来ていた最中でもあり、一度会社を作ったからには上場してみたいと言う思いが沸々と湧いてきました。
時を同じくして、ベンチャーキャピタルからもお金を調達する事ができたので、上場を目指す事になりました。
 
-ドットコムバブルだったという事で、ベンチャーキャピタルからも普通に調達できたのでしょうか。
 
最低限のインターネットインフラは持たないといけません。
ですので最低限の資本をいかに集めるか、これが非常に重要ですが、その時幸いドットコムバブルだった事もあり、出し手の方も沢山いらっしゃいました。
当社としてもホームページ制作とかではなくて、資本は少々かかるけどもインフラのビジネスをしたいという思いが非常に強かったので、そのニーズと出し手のニーズが合致したのかなと思っています。
-ドットコムバブルの時に似たようなサービスを行う会社が出てきましたが、事業が上手くいっている理由は何ですか。
上手く行ったかどうかは最後まで分からないですが、現在の強み、当社がインフラからソフトウェア、サポートまで一気通貫できるという強みがあると思います。
他には、その時集めたお金を何に使ったのかが重要かと思います。
当社の場合はサーバーやインフラに強い背景を元にサービスの強みを出していきたいと考えていました。ですので、増資したお金をインフラの投資へ回したのが非常に大きかったと思います。
あとは、ライセンスを安易に海外から買ってくるのではなくて、その資本で新たなエンジニアを雇って自己の強みになるようなホスティングのシステムを自社で開発できていたのがお金の使い道としては良かったと考えています。
 
-自社の強みになることへ最初のお金を投じた事が成功要因だったという事ですね。
 
商売には3パターンがあるかと思いますが、営業の力で売っていくのが1つ目のパターンだとすると、2つ目のパターンは営業の力が弱かったとしても商品の良さで売っていく事もあるかと思います。
もちろん当社としては、商品も良い、営業力も良い、その両方が良い会社になっていかないといけないと思っています。
しかしながら商品力が強いという事が末永く愛されるサービスに育つ為の必須条件じゃないかと思います。

Part2 4度のIPOへの挑戦


-4度のIPOへのチャレンジの過程について伺えますか。
 
上場するまでトライをすれば誰でも上場ができるのではないかというのもありますが、大きな波でいうと4回、細かい事でいうと何回もトライをして失敗をしてきて、4度目の正直で上場しました。
1999年に今の会社を立ち上げて共同創業者とともに上場を目指してやっていましたが、ドットコムバブルがはじけると、潮を引いたようにそういった話はなくなっていきました。
それが1回目の失敗で、1999年に会社を作ったらすぐに上場してすぐに1部に行けるのではないかと考えていました。
やはり大きな流れの中で、当社も上場できなくなったという事が最初にありました。
その頃ベンチャーキャピタルから調達をしたのですが、その後成功せずにドットコムバブルの後になくなっていった会社が非常に沢山ありました。
当社自身もそれを当て込んでデータセンターを作っていましたのでお金が当然なくなり、非常に苦労をしました。1回目に関しては、そのように上場ができませんでした。
その後2003年頃、にわかにWEB2.0の流行りがやってきて、「もう一度上場できるのではないか」という流れが醸成されてきました。
その中で2004年に上場申請をマザーズにしました。
マザーズは基本的に証券会社が審査をして、証券会社さえよければ上場は非常に簡単だと言われていました。
審査が通った直後、西武事件があり虚偽申告という言葉が流行したのですが、当社の申請についても結局受け付けられる事がありませんでした。
ならばということで、大阪本社の会社でもあるのでヘラクレスに上場しようと考えたのですが、システムトラブルが表面化し、新規上場受付ができない事になりました。それで3度目の上場が成立しないとなりました。
その後、どうしようかと思っていたのですが、これだけ落ちているのだから3回落ちて4回落ちてもたいした事無いだろうと、申請料もそんなに高くないので、その年に東証に持ち込んだところ、トントン拍子で上場承認が出てようやく4度目で上場の承認おりたという流れです
 
-御社の場合、安定した売上利益があったからこそ上場承認が止まりながらも次のチャレンジができたのではないでしょうか。
 
最初の上場の不受理の際にはかなり大変な状況になり、売上は上がっているが経費も伸びているのと、データセンターのキャッシュフローの問題というのもかなり出ていました。
その時に、新しくサービスを作らなければならないという雰囲気が出てきて、2000年頃データセンターを作った頃は「これからはハウジング・コロケーションで行くぞ」と話をしていましたが、周りの会社さんがバタバタといなくなり、お客さんまで陰ってきました。
そういった中で新しいサービス、具体的には専用サーバーサービスを始め業績に寄与してくれました。
ですので、危機的な状況になればなるほど新しいサービスを出さなければならないというムードが醸成されるので、潰れない限りは危機感というのを上手く使いながら売上を確保していったという背景があります。
 
-良い危機感で新しいサービスが生まれて、次のサービスに寄与していったという事ですね。
 
非常に重要な事は、資金調達の手段というのも非常に重要ですが、企業の収益で次の投資をしていく、運転資金についても日々の売上からしっかり確保していくことです。
お金が調達できる・できないよりも、自分たちの事業がちゃんと利益とキャッシュを生んでいるのかが重要だと非常に感じさせられた時でした。
 
-近年、IPOやベンチャーキャピタルからの資金調達を躊躇する会社さんがいるかと思いますが、どう思われますか。
 
苦労してまで上場するというのもどうなのかと思います。
上場する為に全精力を使ってしまって、本業がおろそかになるというとちょっと違うのではと思います。
当然、上場すると求人がしやすくなり、お客様もブランドを非常に重視されるお客様の場合は上場している企業のサービスの方が響くと思います。
ですので、上場する事によって人についても営業面についても良くなるのは事実ですが、それを当て込んで今を悪くしてしまうというのは本末転倒なのではないかと思います。
実際に、足下を固めないといけない状態であれば上場すべきではないと思いますし、足下を固まり始めているのであれば上場というトライをしてその次のステップにいくという事も目を向けてほしいなと思います。
 
-上場して良かったと思うメリットはありますか。
 
企業を起こした人にとっては一つのモチベーションだったり、通過点だったりすると思いますので、その達成感もあると思います。私も東証の鐘を上場日に叩いたのですが、感無量でした。
ただそれ以外にも、採用面が楽になります。新卒では場合によっては親から聞いた事のない会社はどうなのと言われる事もあるわけですが、やはり上場している企業というのが、一つのブランド、肩書きになると思っています。営業面に関しても、それらを気にされる方に対しては響くと思います。
個人的には上場しているかしていないかによって、その会社が良い会社か悪い会社か決まるわけではないと思いますが、そういうのを重視する価値観の方もおられるのも事実ですので、そういった時には非常に役立つと思います。
もう1つの切り口としては、これは人によって変わる考え方かなと思いますが、外からの目があるので自分を律する事ができると思います。
それでも自由に会社を経営することはいいのですが、私物化するのとはまた意味が違うと思います。
なので、やはり上場していないよりもしている方が、相対的にはしっかりと会社運営ができる背景があるのではないかと思います。
 
-海外の企業との提携にも活かされているのですか。
 
インフラの事業者の方であれば当社を少なくとも知って下さっている方は多いですが、海外の企業は日本の事情なんて分からないと思います。
そういった意味では上場しているかしていないかで海外の事業者とのコラボレーションがしやすくなる事もあるかと思います。

Part3 大阪に拠点を置く理由


-関西に本社を置く理由を教えて下さい。
 
事業とは違った切り口での考え方ですが、全てが集中するのがいいのかという事に対する疑問点があります。
当社、データセンターは北海道石狩市に進出して大都市以外の場所にデータセンターを作りました。大型の本格的なものは恐らく初めてかと思います。
決して今までの場所でなくてはならないという価値観は決して正しくはないだろうという考えです。
大阪という場所は、東京対大阪の軸でいうとまだまだ小さい街ですが、グローバルから見たら大阪であろうが東京であろうがいいわけです。
1つ大きな視点で見ると大して気になるような話でもないですし、また、集中させる事自体がそこまで良いわけではないと考えている私の背景から言うと、そもそも本社を移転する必要もないだろうと思っています。
ただ、大阪生まれだから大阪にこだわるという事だと個人的な思いになってしまいますので、どちらかというと、東京以外なら他の場所に引っ越しても良いという気はします。
例えば北海道とか九州とかそういった選択肢というのも当然出てこようかと思います。ですが、今は折り合いの良いところが大阪だということで大阪本社を継続しています。
大きな視点で見るとわざわざお金をかけて今、東京に行く必要がないのではないかと経営判断される経営者は多いのではないかと思います。

Part4 起業志望者・起業家へメッセージ
[alfstream ckey=InbYWlHc3hRx player=noauto] 私が1998年に有限会社を創った時に読んだ本がありまして、そこの一節にスティーブ・ジョブズの言葉で、「一生に一回でも社長になったらいいじゃないか」と書いてありました。
スティーブジョブズの事を特に崇拝しているわけではないですが、その言葉には非常に響きまして、一度は社長になってみるもの良いのではないかという気がしました。
物事は始めるのが大変だと思うのですが、既に起業されている方はそのハードルを越えているわけなので、なかなか他の人が越えられないハードルを越えている事に自信を持ってもらいたいです。
これから起業される方にはそのハードルを越える事さえできればその先は開けていると思っています。
ですので、まずは一歩を踏み出して起業をする、一度社長になってみることに誇りを持って人生を送ってほしいと思っています。
 
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