とある会議での話

これはほんの数十年前、実際に行われていただろう会議の再現です。

引用:gahag.net
部長A:「わが社の業界シェア率が今期で60%を超えました!」
社長:「ついにわが○○社もこの業界で確固たる地位を築くことが出来ましたね。顧客のニーズに応えているという証でもありますし、この調子でいきましょう」
部長B:「では早速、本日の本題に入っていきたいと思います。最近勢いのある××社が新技術を用いた新たな製品を開発したそうです」
部長A:「性能も品質もうちの製品の足元には及ばないほど低いと耳に挟みました。対象となる市場も我々とは異なるでしょうし、気にする必要はないかと考えられます」
社長:「そうですね。我々は自製品のさらなる品質向上を目指して改良に努めましょう」
部長B:「社長の仰る通り、自製品の改良に心がけましょう!」(イノベーションのジレンマが起こらないといいけれど……)
 
 
果たして、この企業はこの後どうなったのでしょうか?
部長Bの懸念していた「イノベーションのジレンマ」がこの会社を襲ってしまったかもしれません。
 
「イノベーションのジレンマ」は数多くの業界で起こっています。
 
優秀な経営者が運営している企業や、業界内で安定している企業だとしても、関係なく「イノベーションのジレンマ」は起こる可能性を秘めているのです。
 
一体イノベーションのジレンマとは何なのでしょうか?
 

イノベーションのジレンマとは

イノベーションのジレンマとは米国ハーバードビジネススクールのクレイトン・クレステンセン教授が提唱したイノベーションにおける理念の一つです。
その理念は「業界の中で確固たる地位を築いた企業が、既存製品の改良ばかりに注意が注がれ顧客の真の需要を見誤り失敗する」という内容です。
 
大企業において重要な経営判断を下している経営者が引き起こしてしまうことのあるイノベーションのジレンマ。
優秀な経営者であるが故に合理的な判断を下し、そしてその合理的な判断を下すが故に真の需要を見誤ってしまう。
確実な利益を追い求めリスクを負わないことが、将来的に企業を窮地に追い込むことになる可能性があるということです。
 
一体なぜそんなことが起こるのでしょうか?
2つのイノベーションと3つの原因について説明していきたいと思います。
 

2つのイノベーション


gahag.net
そもそも、イノベーションとは何なのでしょうか。
広義的な意味では「新製品の開発、新生産方式の導入、新市場の開拓、新原料、新資源の開発、新組織の形成などによって、、経済発展や景気循環がもたらされるとする概念」(出典:デジタル大辞泉)だと述べられています。
 
今回、イノベーションのジレンマを語る上では2種類のイノベーションについて理解しておく必要があります。
 
 
それは持続的イノベーションと破壊的イノベーションです。
(*破壊的イノベーションについては上記リンクでも紹介しています)
 
 
持続的イノベーションとは顧客のニーズをより満たすために既存製品をさらに改良することを目的としたイノベーションのことです。
持続的イノベーションによって生み出される商品は洗練された製品であることが多いため高性能かつ高価格な特徴を持っています。
そのため安定的に利益を生み出すことが出来ると予想される安全策とも呼べるでしょう。
 
 
一方破壊的イノベーションとは低性能低機能ながらも高い利便性を兼ね備えているために市場を一変させるほどの力をもっているイノベーションのことです。
初期の時期は粗削りの技術のために、性能の面で既存製品に劣る部分が多いのも事実です。
しかし利便性の面で顧客が求めている需要を押さえているために年月が経てば市場シェアを大きく拡大させる可能性を持ち合わせています。
 
 
 

イノベーションのジレンマが起きる3つの原因

イノベーションの中でも2種類あるということが分かった上で、イノベーションのジレンマが起きてしまう理由とは一体何なのでしょうか。
 

主に3つの要因で成り立っていると考えられます。
 
 

1.破壊的イノベーションを軽視し株主のことを第一に考えた経営判断


引用:gahag.net
 
大手企業の経営者にとって意識しなければならないこと、それは株主のために利益を上げ続けることです。
そしてそのために高性能なために高価格な、利益率の高い製品を作り続ける経営判断を下します。
つまり持続的イノベーションを行うと決断するのです。
一方、破壊的イノベーションが登場初期のタイミングでは性能において圧倒的な差があるために、大企業の対象としているハイエンドな市場ではないローエンドな市場を対象とした製品であると判断します。
その結果、今後競合となるほど気に掛けるほどの製品ではないと甘く判断することになるのです。
 
 
 
 

2.ローエンド市場からハイエンド市場へシェアを拡大する破壊的イノベーションの影響力


引用:gahag.net
 
破壊的イノベーションで生まれた製品は初期は性能面機能面で既存製品に劣ることが多いと考えられます。
そのために、ある面においては利便性は高いが価格は安いローエンド市場をターゲットにおいた製品が生まれます。
ローエンド市場はハイエンド市場に比べて競合が少ないので、高い利便性を持ち合わせた製品はローエンド市場でのシェア率を一気に上げることでしょう。
そしてシェアの割合が上がる過程で破壊的イノベーションによる技術力も向上し、初期のタイミングでは性能面で劣っていたハイエンド市場の製品に負けない質の高い製品が誕生します。
結果的にローエンド市場のみを対象とすることしか出来なかった破壊的イノベーションがハイエンド市場の製品と変わらない性能で、かつそれ以上の利便性を誇ることが起きるのです。
 
 
 

3.顧客の真の需要を履き違える持続的イノベーションの落とし穴


引用:gahag.net
 
大手企業の経営者は株主のために利益を優先した経営判断を下します。
それは高性能かつ高機能、高価格の製品を生み出す持続的イノベーションを行い続けるというものです。
長年培ってきたノウハウがあるからこそ行える大手企業にしか下せない合理性の高い経営判断であるとも考えられます。
実際に、持続的イノベーションが起きている限りは顧客の元にクオリティの高い製品を提供することが可能となり、顧客もまた高い性能の製品を購入します。
 
ここで一つ質問です。仮にもしその状況が長年続けばどうなるでしょうか?
答えは一つ。
顧客のニーズを超える、過剰ともいえるほどの高性能な製品が生まれるということです。
 
例えば「カメラ」などがその典型でしょう。
 
何万画素という画質の綺麗さで競っていた業界が持続的イノベーションを長年続けていった結果、単なる画質の綺麗さだけではなく手ブレ防止効果のついたカメラが人気になるという事態が生じました。
つまり、それまで大手企業が競ってきた画質という要素を顧客がそれほど重要視しなくなり、むしろ手ブレ防止などの利便性が高い部分を高く評価するようになったのです。
 
破壊的イノベーションにより顧客の評価項目が増えたことによって、持続的イノベーションでは太刀打ちできない状況に陥ったとも考えられるでしょう。
 
 

イノベーションのジレンマに陥らないための対策


引用:gahag.net
 
イノベーションのジレンマとは大手企業の経営者が目先の安全な利益を求めるために経営判断を下すことで生じます。
それだけ持続的イノベーションによって生じる結果はある程度想定内の出来事であり、また利益を生み出すものとして容易に考えられるものであるということです。
 
一方で破壊的イノベーションへ投資することはそれだけの不確実性とリスクを生じさせます。
確実に成功するという保証はどこにもありませんし、どれくらいの期間で成果が出るかも想像することは困難です。
 
しかし破壊的イノベーションが一度でも軌道に乗ると、それまでは存在しなかった新しい選択肢を市場に与えることになります。
新たな判断基準を兼ね備えた顧客は過剰ともいえる行き過ぎた性能を選ばず、利便性の高い製品を選ぶことでしょう。
 
 
では経営者は一体どうすれば良かったのでしょうか?
 
 
同時並行で両方行ってはどうでしょうか?
企業内の組織を主に2つに分け、一方では既存の製品の改良を行い、もう一方では新規製品の開発を行うのです。
持続的イノベーションを行うことで、株主の期待に応えリスクの少ない方法で目先の利益上げることが可能です。
破壊的イノベーションも同時に行うことによって、将来の市場の変化、顧客のニーズの変化を柔軟に対応することが可能となります。
 
まさに二足の草鞋を履いた経営が将来リスクを考えた上での最善な経営判断だと考えることが出来ます。
 
 
 

総評:イノベーションのジレンマ

イノベーションのジレンマとは優秀な経営者でも陥る可能性の高い事象です。
事態を短期的ではなく長期的に考えた時にどれが正しいかすぐに決断することは、たとえ優秀な経営者だったとしても困難なはずです。
ある程度の期間をもって長期的に経営判断を行うことによって、破壊的イノベーションがもたらす影響を考察することができ、最悪な状況を避けることが可能となるかもしれません。
 

【よく読まれている記事】
総利用者数300人突破!! 「起業の科学」著者田所雅之氏による、ここだけでしか見れないコンテンツ

『enfacスタートアップサイエンス』は、世界で5万回シェアされたスライド「StartupScience」制作者の田所雅之氏が、書籍300冊、経営者のブログ500本、自身のシリコンバレーでの起業経験と1000人以上の起業家を取材する中で体系化した知識を、動画ラーニングのenfacが、いつでもどこでも学びやすくまとめた動画学習コンテンツです。


2017年6月より1年間をかけて企画・撮影した105本。今後も、毎月2-3本新しいコンテンツをリリースし、学びを深めていくことをサポートします。
コンテンツを学習することで、「試行錯誤で時間を浪費する」「チーム内で噛み合わないコミュニケーションを続ける」などの無駄を省き、チームが本来の目的や使命に向かってより効果的に進むことができます。

これ以上は記事がありません

読み込むページがありません

おすすめの記事